代理店の手数料は「作業の対価」ではなくなっていく|広告運用者がツールを開発する時代
バナーの制作、入札の調整、広告の入稿。こうした広告運用の「作業」を確実にこなすことも、私たちの重要な提供価値の一つです。
ただ、AIによって、こうした作業を仕組みに任せられる場面が増えてきました。しかも、既製のツールに業務を合わせるのではなく、個別のクライアントに合わせた仕組みを作ることができます。
今回は、現場のコンサルタントが作ったツールが約80時間分のバナー制作をなくして、その先で何が変わったかを書いてみます。
目次
販促のたびに、店舗の数だけバナーを作っていた
ある店舗ビジネスのクライアントの事例です。
全国に100を超える店舗を展開されていて、私たちは広告運用とクリエイティブ制作をお任せいただいています。
このご支援では、販促のたびに、同じデザインで店舗名だけ違うバナーを、店舗の数だけそろえる必要がありました。セールの日付を一つ変えるだけでも、全店舗分の作り直しです。
1枚あたりの所要時間は5分ほどですが、店舗数とデザイン数の掛け算で、枚数は数百枚まで膨らみます。仮に500枚なら、この作業だけで40時間を超える計算です。
しかも、依頼してから手元にそろうまで、数営業日かかっていました。店舗が増えるほど、この作業も増えていきます。
そのぶん減っていくのは、クライアントの事業成長に向き合う時間です。なので、AIでどうにかできないかを考えました。
編集を速くするのではなく、編集する工程をなくした
最初に社内のクリエイティブチームが出した案は、Figmaのプラグインを作ることでした。店舗名を並べたCSVを読み込ませると、デザインデータの中の文字が自動で入れ替わります。
ただ、これだとFigmaを開いて、書き出して、確認するという工程は残ります。そもそも、店舗名だけを差し替える制作に人の判断の余地はないので、できれば人が関わらないのが理想です。
そこで、編集を速くするのではなく、人が編集する工程そのものをなくす方針で考えました。
その上でまず試したのは、画像生成AIでバナーそのものを量産する方法でした。ただ、生成のたびに文字や余白、装飾などの細部が微妙に変わってしまいます。プロンプトを調整しても、数百枚を同じ仕様でそろえられる水準では安定しませんでした。
試行錯誤を重ねて、AIに任せるのを「最初の一度」だけにすることにしました。具体的には、AIには「指示書」だけを書かせます。
お手本のバナー1枚をAIと画像解析で読み取り、どの位置に、どの書体・大きさ・色で店舗名を置くかを数値の指示書にします。人がそれを確認して確定し、あとは画像処理のプログラムが指示書のとおりに店舗名を書き込んでいくだけ、という仕組みを作りました。
指示書を確定した後の量産に、AIは関与しません。プログラムが同じルールで描くので、いつ誰が作っても、店舗名以外のデザインは変わりません。AIモデルが更新されても正しく動きます。
AIの使いどころを「完璧な指示書を書かせる」ことに絞り、あとは決まった処理をプログラムに任せる。この切り分けで、人が編集せずに量産する、やりたかったことが実現できました。
誰でも使えるようにして、依頼と納品待ちもなくした
これで、量産の体制はできました。
ただ、プログラムを作った人にしか動かせないままだと、今度は依頼と納品待ちがボトルネックになります。作るのは一瞬でも、頼んで待つ時間は残るからです。
なので、クラウド上で動くWebアプリにして、誰でも使えるUIで操作画面も用意しました。広告運用者はブラウザで、使いたいデザインと対象の店舗を選んで、生成ボタンを押すだけです。

新しいデザインの追加も、ファイルをアップロードするだけで反映されます。
これを作ったのは、専任のエンジニアやデザイナーではなく現場の広告運用者で、開発にかかった時間は約15時間でした。
この仕組みで、3ヶ月で33種類のデザインを使い、のべ975枚のバナーを生成しました。従来の制作工程に換算すると約80時間分に相当します。
業務の流れは、次のように変わりました。
| 工程 | 所要時間 | |
|---|---|---|
| 従来 | 依頼 → 制作待ち → 納品確認 → 修正 → 入稿 | 数営業日 |
| 導入後 | デザインと店舗を選択 → 一括生成 → 確認・入稿 | 数分 |
依頼と納品待ちの受け渡しがなくなり、広告運用者が必要なタイミングで、入稿までその場で完結できるようになりました。
差し替えの時間が、事業成長に向き合う時間に変わった
このツールは、細かなバージョンアップを重ねながら、今ではチームに完全に定着しています。
その結果、工数に余剰が生まれ、チームは新しいことに取り組めるようになりました。
例えば、
- 店舗の予約データから空き枠を逆算し、集客が必要な店舗に配信を提案する
- 競合約100本のクリエイティブを分析し、他社にない切り口の動画施策を企画する
- 予約から申込までの歩留まりを数字で分解し、LPの改善を提案する
もちろん、これらにもAIをフル活用しています。
差し替え作業に追われるリアクティブな仕事から、クライアントの事業成長につながるプロアクティブな仕事へ、時間の使い道が変わりました。
浮いた80時間そのものより、この変化のほうが大きな価値だと思っています。
オーダーメイドの仕組みが、現場の手で作れるようになった
こんな取り組みができたのは、AIによって「仕組みづくりの常識」が3つの点で変わったからだと思います。
1つ目は、誰が作るか。この仕組みは、専任のエンジニアでもデザイナーでもなく、広告運用者が作りました。コードを書く仕事の外にいた人が、自分で動くものを作れるようになっています。
2つ目は、誰のために作るか。これまで、1社だけのために仕組みを作るのは割に合わず、だから世の中のツールは汎用品でした。でも、開発が15時間で済むなら話は別です。3ヶ月で80時間分を回収できるので、1社のためだけに作っても十分に見合います。
3つ目は、何を作るかを誰が決めるか。最初の案はFigmaのプラグインでした。エンジニアに頼んでいたら、そのとおりのものができていたと思います。違うものができたのは、差し替えの手間を知っている人と、AIで何ができるかを知っている人が、同じチームの中にいたからだと思います。どちらか片方だけなら、たぶん「速くする」で終わっていたと思います。
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運用代行の作業が私たちの提供価値の一部であることは、今も変わりません。ただ、手数料でいただける価値の中心は、作業ではなく、事業成長にどれだけ向き合えたかに移っていきます。
私たちは、作業を減らす工夫と、その先の提案を増やす仕事を、これからも続けていこうと思います。