【EC企業向け】Excelテンプレート付き!新規顧客獲得予算の適正ラインを求める方法

【EC企業向け】Excelテンプレート付き!新規顧客獲得予算の適正ラインを求める方法

売上金額がKGIに置かれることの多いECサイトの広告運用においては、ROAS運用を行い既存顧客向けの広告配信に傾倒するケースが多いですが、売上の頭打ちを回避するには新規顧客の獲得に向けた施策展開が重要です。

とはいえ、売上目標を達成しながら新規顧客の獲得を行っていく上では「新規顧客の獲得にどれくらいの予算を投下するべきか」という判断基準を設ける必要がありますが、既存獲得施策と比べてシミュレーション難易度の高い新規獲得施策においては、マーケティング担当者の肌感で予算額を決めるケースが多いのではないでしょうか。

今回は、前回記事の手順で抽出した新規顧客に関するデータを活用し、短期の売上目標を達成できる範囲で、かつ中長期の顧客増加も狙っていくためには新規獲得予算をどれくらい投資すべきか?という命題に対して、新規獲得予算の適正ラインをシミュレーションする方法についてご紹介します。

  • 現状はROAS運用に傾倒しており既存顧客向けの広告施策が中心だが、新規顧客の獲得施策も進めていく必要があると感じている
  • 新規獲得にどの程度予算を割けばよいか、合理的な根拠をもとに判断したい

というEC企業のWebマーケティング担当者の方には、参考になる情報かと思いますので、ぜひご覧ください。

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新規獲得予算をシミュレーションする方法

ここからは、新規顧客に関するデータを活用して新規獲得予算の適正ラインをシミュレーションする方法について解説します。

今回のシミュレーションでは、「短期の売上目標を達成しつつ、新規顧客数を伸長させていくためには既存:新規の予算バランスは○:△がベストである」という予算の適正ラインを割り出すことをゴールとしています。

前回記事の方法で新規顧客に関するデータを集める必要はありますが、Excelがあれば誰でもシミュレーションが可能ですので、ぜひ本記事の方法を活用してみてください。

予算シミュレーションの前提条件

今回のシミュレーションを行うには、直近1年間の日別の①広告経由の売上②広告コスト③コンバージョン数のデータが必要です。

また、必須ではありませんが、新規獲得予算の適正ラインを求める上では、「そもそも新規顧客を獲得する必要性がどの程度あるのか?」ということを関係者間で認識を合わせておくことをおすすめします。

新規顧客の獲得意義がクリアでない場合は、以下の記事を参考に、まずは売上構造に占める新規顧客・既存顧客の比率を割り出しましょう。

さらに、今回の記事ではExcelの対数近似曲線という機能を活用して予算の適正ラインをシミュレーションしているため、分析の精度を高めるには対数近似曲線の基本的な性質を理解しておく必要があります。

対数近似曲線の扱い方については以下の記事で解説していますが、①広告配信の実績データが少ない②データに外れ値が多い③過去と現在の間で大きな環境変動が起きている場合はシミュレーション精度が落ちることは事前に理解しておきましょう。

予算シミュレーションの手順

ここからは、新規獲得予算の適正ラインをシミュレーションする手順を解説します。

おおまかに分けて3つのステップで進んでいきますので、こちらのテンプレートを活用しながらシミュレーションを進めてみてください。

(個人情報を入力する必要はありません。以下のリンクをクリックするだけで無料でテンプレートをダウンロードできます)
【テンプレート】新規顧客の獲得予算シミュレーション.xlsx

STEP1:対数近似曲線を使って「売上予測」と「新規ユーザー獲得CPA予測」を求める

まずは、直近1年間の売上、広告コスト、広告経由の売上のデータを使って①将来の売上予測②新規ユーザー獲得に必要なCPAの予測の2つを求めます。

1.売上予測を求める手順

⑴Excelの「①売上予測」シートに直近1年間の日別の広告コストと広告経由の売上のデータを転記する

上記のように、直近1年間の広告配信金額と広告経由の売上データを記入します。

(データを入力すると自動で②の散布図グラフが作成されます)

①散布図グラフの右横の「+」ボタンをクリックし、「近似曲線」にカーソルを合わせ「>」ボタンをクリック→「その他のオプション」を選択

②右横にメニューバーが表示されるので「対数近似」を選択し、メニュー下部に表示される「グラフに数式を表示する」を選択

Y=A In(X)-Bの形式で数式が表示されることを確認しましょう。上記の場合A=2E+06、B=2E+07となります。

桁数が多いためExcel上ではEという記号を使って表記されていますが、これを数値に直すとA=2000000 B=20000000になります。(Excelに「=2E+06」のように入力すると数値表記に直せます。)

この数値を「➂対数(y=A In(X)-B)の係数を調整」欄にそれぞれ入力します。

💡 この係数は売上予測のシミュレーションの際に微調整を行うので、この段階ではあくまで過去の売上実績を基にした仮数値として認識しておきましょう。

⑶得られた数式から売上予測のシミュレーション値を算出する

係数を仮置きしたら、「④売上予測のシミュレーションを行う」の表に日予算の金額を入力しましょう。

これは「日予算をどの程度増やせば、売上がどれくらい上がるのか?」というシミュレーションを行うための数値なので、日予算の増加幅は自社の予算金額にあわせて自由に設定してください。

その他の項目には関数を設定しているため、日予算を入力すれば売上やROASの予測も自動で算出することが出来ます。

💡 上記の表で算出した売上・ROAS予測は、過去の売上実績を基にしたシミュレーション数値になるため、季節性などの諸々の事情を加味した上で、妥当性のある数値かどうか確認しましょう。
もし現実性の低い数値になった場合は、さきほどの対数近似の係数を微調整します。

2.新規ユーザー獲得CPAの予測値を求める手順

次に、新規ユーザーを獲得するために必要なCPAのシミュレーションを行っていきます。

⑴Excelの「①新規顧客の獲得CPA予測」のシートに直近1年間の配信金額、総合CV、新規ユーザーのCV数を入力する

新規ユーザーのCV数はこちらの記事で抽出したGA4レポートから算出しましょう。

新規獲得に使用した配信金額については、新規獲得と既存獲得で予算を分けていない場合は概算値で算出します。
(今回のサンプルでは配信金額×(新規CV数/総合CV数)×4で計算されるよう数式が入っています。)

先ほどの売上予測の手順と同様に、散布図が作成されることを確認してください。

⑵対数近似曲線の数式を表示する

散布図グラフが作成出来たらさきほどの手順で対数近似曲線の数式を表示します。

Y=A In(X)-Bの形式で数式が表示されることを確認しましょう。上記の場合A=64.705、B=720.06となります。

この数値を「③対数(y=A In(X)-B)の係数を調整」欄にそれぞれ入力します。

こちらも先ほどの売上予測と同様、シミュレーションで出てきた数値を参照し、後で係数を微調整する可能性があることを念頭に置いておきましょう。

⑶得られた数式から新規ユーザー獲得CPAのシミュレーションを行う

対数近似曲線の係数を確定したら、Excelの「⑷新規獲得CPAのシミュレーションを行う」の表に数値を入力していきます。

これは「新規獲得予算を日当たりいくらにすると、新規獲得CPAがどれくらいになるのか?」をシミュレーションする表です。

新規獲得の日予算の増加幅は自社の予算額にあわせて仮数値として入力してみてください。

その他の項目には関数を設定しているため、日予算を入力すれば売上やROASの予測も自動で算出することが出来ます。

また、後ほどのシミュレーションで使用するため、Excelの配信金額(P列)と総合CV(Q列)に対しても散布図を作成し、対数近似のシミュレーションを行っておきましょう。(⑤⑥部分)

STEP2:シミュレーションした内容をExcelの表にまとめる

売上予測、新規獲得CPA、CV予測のシミュレーションが完了したら、Excelの「新規獲得予算のシミュレーション」をしていきます。

シミュレーション前提のため、仮数値で良いので「③表」のオレンジ枠になっている部分の数値を入れていきましょう。
(その他の部分はExcel関数を組んでいるため自動で数値が算出されるようになっています)

入力箇所(Excelのオレンジ枠)は以下の通りです。

  • 合計予算(AG5~AI5)
    • 広告施策に充当できる月間予算を記入
  • 既存予算(AG6~AI6)
    • 既存顧客の獲得に充当する月間予算を記入(今回は広告予算2000万のうち、1350万/1500万/1650万を充てた際のシミュレーションを実施)
  • 新規顧客の想定売上単価(AG18~AI18)
    • 新規顧客1人あたり初回購入時に期待できる売上単価の想定金額を記入します
  • 売上目標(AG22~AI22)
    • 広告の単月の売上目標の金額を記入します
  • リピーター転換率(AG25~AI25)
    • 初回購入を行った顧客のうち、何割程度がリピート購入に繋がるか記入します(今回は新規顧客のうち30%がリピーター転換すると仮定)
  • 再購入客単価(AG27~AI27)
    • リピート購入される場合の想定顧客単価を記入します

STEP3:表にまとめた数値を見て、新規獲得予算の適正ラインを求める

ここまで出来たら、具体的に新規顧客の獲得予算にどれくらいの予算を割けばよいのかシミュレーション数値を見て判断します。

広告の投資予算のバランスを判断する上で重視するポイントは自社の方針や戦略によってさまざま考えられると思いますが、

例えば

  • IPOを控えており、事業運営の方針として単月の売上目標は高いコミットが求められる
  • 一方で現在の売上構成の大部分は既存顧客(リピーター)経由のものとなっており、このまま既存顧客の獲得に傾倒していくとトップラインの頭打ちが生じる可能性がある

といったようなことが分かっている場合は、「単月の売上目標は安定的に達成できる範囲で、中長期の顧客拡大も狙っていける予算配分地点はどこか?」という観点でシミュレーション数値を見ていきます。

上記のシミュレーション数値の場合、サンプル1のパターン(既存1350万/新規650万)では単月の売上目標がショートしてしまうため、売上目標が必達の状況であるならばベストな予算配分ではないことが分かります。

一方で、サンプル3のパターン(既存1650万/新規350万)の場合、売上目標は達成できますが、想定獲得の新規ユーザー数はサンプル2と比較して700人前後減少するため中長期の顧客獲得を狙っていく場合はもう少し新規獲得に予算を振ってもよさそうです。

よって、上記のシミュレーション数値を基にすると、「単月の売上目標を達成しつつ、中長期の顧客拡大も狙う」という目的に対して、3つのシミュレーションパターンの中で一番マッチするのは、サンプル2(既存1500万/新規500万)の予算配分であることが想定できると思います。

もちろん、サンプル1~3までの予算配分の幅を小さくしてより詳細なシミュレーションを行う必要はありますが、あくまで仮説ベースでの理論上の数値になるため、ざっくり当たりをつけて細かい数値は実際のデータを基に修正を加えていく前提であることはご理解ください。

まとめ

EC企業においては、既存顧客向けの広告施策に傾倒するあまり中長期の顧客基盤の拡大がおろそかになってしまうケースも多々あります。

自社内の課題認識として「足元の売上も担保しつつ、中長期の顧客拡大もしっかりと狙っていきたい」という話題が上がっている場合は、ぜひ今回ご紹介したExcelテンプレートを活用して、新規獲得予算のシミュレーションを行ってみてください。

慣れないうちはシミュレーションの勘所がつかめず納得感のある数値が出せないケースもあるかと思いますので、その場合は新規獲得予算のシミュレーションの経験が豊富な外部支援会社に相談するのも一つの手です。

自社だけでは納得感のあるシミュレーションが行えない場合や、データを基にしたKPI設計でお悩みの場合は、こちらのお問い合わせページより「ECサイトのシミュレーションに関する相談」と記載の上でご連絡ください。

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この記事を書いた人

株式会社オーリーズ

マネージャー

中野 亮

新卒で株式会社ロックオン(現イルグルム)に入社。広告効果測定プラットフォーム 「AD EBiS」の広告主・広告代理店向けの営業を担当。 業務を通してデジタルマーケティングの世界に強い興味を持ち、 オーリーズであれば「自分を叶え」つつ、お客様のビジネスも叶えられる環境があることに感動し、入社を決意。 「代理店の担当者」ではなく「お客様のマーケッター」になることを目標に邁進中。

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