最高のクライアントワークを実現する仕組みと原理 ~アジャイルなマーケティングチームを目指して~

最高のクライアントワークを実現する仕組みと原理 ~アジャイルなマーケティングチームを目指して~

“最高のクライアントワークがしたい

私がオーリーズで働く理由は、究極的にはこの想いひとつに辿り着きます。前職も含めれば、かれこれ12年ほど外部支援の立場で働いているわけですが、クライアントワークというものは奥の深い仕事です。

「発注者」と「受注者」という関係の中で生まれる力学を理解し、関係者の利害を調整しながら、目標と業務範囲について合意形成をしていく。顧客の要求に的確に応えながらも、同時にWill(意志)を持ち、期待を越えることを目指す。油断をすると目的を見失い、手段にとらわれ、成果につながらない活動にエネルギーを割くことになってしまう…

クライアントワークには、こんな「外部から支援すること」がもたらす特有の難しさがあります。

ここで、私たちの「クライアントワーク力」の実績です。弊社は、年に2回すべてのお客さまにNPS®調査を実施していまして、ありがたいことに継続して高い評価をいただいています。

最新の実績はこちら。

今回は、この高い推奨意向を支える「最高のクライアントワークのための仕組みと原理」についてお話します。

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最高のクライアントワークとは、アジャイルなチームになること

最高のクライアントワークの秘訣は、「クライアントと共にアジャイルなチームをつくること」だと考えています。

「クライアントとパートナーがひとつになって、”契約ではなく信頼” によって支えられた協力関係をつくりあげること」。これが、私の考えるアジャイルなチームのイメージです。 「柔軟性や俊敏性がある」とか「仮説検証のサイクルが早い」といった表面的な話ではありません。それらは、アジャイルなマインドセットや原則を体得したチームから、結果として現れてくるものです。

VUCAと言われて久しい昨今、クライアントとパートナーとの関係にも変化が求められています。

Building a marketing organization that drives growth today(今日の成長を牽引するマーケティング組織づくり)と題した McKinsey & Company の記事では、多様化・複雑化するマーケティング環境の中で、企業が目指すべきマーケティング組織について説明をしています。

少数のパートナーに依存した「線形プロセス」のマネジメントは過去のもので、これからは各領域専門のパートナーと相互に接続された「エコシステム」を機能させるべきだ、と述べています。

The traditional notion of managing a roster of a single media agency and one or two creative agencies of record seems like a relic from ancient marketing history.
1社のメディアエージェンシーと、1~2社のクリエイティブエージェンシーを管理するという伝統的な考え方は、古代マーケティング史の遺物のようです。

The teams that deliver these services—whether internal or external—need to function as an interconnected ‘ecosystem.’
チームは、社内外を問わない相互接続された「エコシステム」として機能する必要があります。

Supporting this model requires the role of the traditional brand manager to shift from leader to orchestrator.
このモデルをサポートするためには、従来のブランドマネージャーの役割を「リーダー」から「オーケストレーター」へとシフトさせる必要があります


引用:Building a marketing organization that drives growth today

また、ビジネス・アジリティに関するコミュニティ駆動型組織「Business Agility Institute(BAI)」が作成した、An operating model for the next generation of organizations(次世代の組織運用モデル)の中でも、理想的なクライアントとパートナーとの関係について以下のように述べています。

Take the same care when onboarding partners as with onboarding new employees. […] This small upfront investment greatly improves your chances at both a positive outcome and a valuable long-term relationship.
新入社員のオンボーディングと同じように、パートナーとのオンボーディングにも注意を払いましょう。[…] このような小さな先行投資によって、ポジティブな結果と、価値ある長期的な関係を築くことのできる可能性が大きく向上します。


引用:An operating model for the next generation of organizations

これらに共通するテーマは「いかにして不確実性に適応するアジャイルな組織・チームをつくるか」ということです。特に、BAIの「新入社員を迎え入れるのと同じように外部支援会社へ投資をおこなう」という考えは、クライアントとパートナーとの新しい関係性を表す象徴的なものです。

そして、私たちはこのような「アジャイルなチームづくり」にこだわって、組織づくりやサービス提供をおこなっています。例えばこんな取り組みをしています。

私たちの高い推奨意向の秘訣は、ここにあります。

変化の激しいマーケティング環境では、クライアントとパートナーは「信頼によって支えられたチームになる」ことが期待されます。その関係づくりの巧拙が支援会社のパフォーマンスを左右する、そういう時代なのだと思います。

アジャイルなチームになるための原則

ここからは、アジャイルなマーケティングチームをつくるための基本原則と、私たちが取り組んでいる具体的な方法をご紹介します。

クライアント(発注者)とパートナー(受注者)との間でアジャイルなチームをつくるために、抑えておくべきキーワードが3つあります。

  • 情報の非対称性
  • インセンティブ
  • 限定合理性

これらがもたらす力学を理解し、アジリティを損なわせる障害を生み出さないようにすることが大切です。

これを理解するために、「発注者」と「受注者」という関係について考えてみます。

発注者には、たとえば、「売上を伸ばすこと」、「市場シェアを伸ばすこと」、「ブランドの認知度や好意度を高めること」、といったマーケティングの上位目的、つまりは「発注者の合理性」があります。結局、すべての活動はこれを実現するために計画されるので、発注者は受注者に対して、この達成のためにもっとも効果的・効率的な手段を選定し、実行してほしいと考えています。

しかし、ここに「情報の非対称性」「インセンティブ」が絡んでくると、受注者の調子が悪くなってきます。

情報の非対称性とは、発注者(あるいは受注者)しか持っていない情報のことです。たとえば、「中長期の目標」、「目標の根拠や背景」、「競合情報」、「他施策のパフォーマンス」、「契約率」、「継続率」、「LTV」、「関係者個人の目標(=思惑)」…といったあらゆる情報です。受注者がこれらのことを理解していないと、発注者と同じような目線を持つことができなくなります。

たとえば、広告代理店が手元にある情報だけで広告運用の改善に努め、お問い合わせ数の向上に成功したとします。これでクライアントに喜んでもらえるぞ!…と成果を報告したところ、クライアントから「若年層の契約者が極端に増加していて、この層はLTVが低い傾向にあるので全体ではほとんど売上が上がっていない。むしろ、現場のオペレーションに負担がかかりサービス全体の効率は悪化している」と告げられた…といったような話です。

このように、受注者が自分たちの持っている情報や視点だけで成果を上げようとすることで、発注者の合理性からズレた結果を招いてしまうことがあります。

また、情報の非対称性に加えて「インセンティブ」の観点も重要です。たとえば、広告予算に連動した手数料で取引している場合だと、予算が減少すると、受注者が頑張ろうとする動機も弱くなります。

これら、情報の非対称性やインセンティブによって、本来は、発注者の合理性を最大化することを期待されたパートナーなのに、受注者の合理性で活動してしまいます。つまり、「受注者の限定合理性」が働いている状態です。

そして、この限定合理性が発生してしまうと、発注者は不安や不信感を抱きはじめます。

すると、発注者は何をしようとするかというと、期待した成果を上げてもらえるように、受注者をコントロールしようとします。これに対し受注者は、この発注者からのコントロールに対して、正しくその要求に応えていることを説明したり、正しい情報をもとに実行していることを説明したりしようとします。

こうなると、双方に「コントロールするコスト」「説明するコスト」が発生し、チームのアジリティが低下する関係性ができあがります。

この構図は、多くの人にとって親しみのある用語である「マイクロマネジメント」の状態とよく似ています。不確実性にもっとも相性の悪い関係性と言えます。

つまり、発注者にとって魅力的な受注者になるためには、このような構造に陥らないための仕組みが必要になります。

このことについて、先述の記事でも、このように述べられています。

brand managers need to put in place shared KPIs, communicate clear accountability to each partner, develop a “rapid reaction” governance structure, and create flexible guidelines so that partners can make decisions on the front lines quickly.
ブランドマネージャーはKPIを設定し、各パートナーに明確に伝え、迅速に対応できるガバナンス構造を構築し、パートナーが最前線で迅速に意思決定できるように柔軟なガイドラインを作成する必要があります。


引用:Building a marketing organization that drives growth today

昨今のような不確実性の高い環境では、パートナーをコントロールしようとするのではなく、自律できるような仕組みをつくっていくべきだ、と提案しています。

具体的な仕組み

以下よりは、情報の非対称性を小さくし、できるだけ限定合理性を働かせないようにするために、私たちがクライアントと一緒に取り組んでいるいくつかの方法についてお伝えします。

オンボーディングを実施する

新しいクライアントやパートナーと取引をはじめるときには、「オンボーディング」を実施して、パートナーがブランドを理解するための時間を設けましょう(設けてもらいましょう)。

私たちは「ブランドプリント」というフレームワークを使って、クライアントと一緒にワークをやることがあります。

ブランドプリントは、下図のように「指紋」をイメージしていて、「世界に二つとないブランドを理解する」という意味が込められています。ブランドの目指す姿や課題、定量目標について一緒に整理をすることで、その後の活動による結果責任が「お互いのもの」になります。項目を埋めることが目的ではありません。大事なことは、支援の初期段階でブランドについて一緒に議論をすることです。

オンボーディングは、たった数時間の先行投資で情報の非対称性を低減し、信頼関係づくりにも一役買ってくれる、たいへん効果の高い取り組みです。

Vision:最終ゴール
ブランドの最終ゴールは何ですか?
この世界にどんな変化を起こしたいですか?
このブランドが歴史に残るとすれば、どんな記述でしょうか?

Objectives:達成したい目標
1年後、3年後にこのブランドは事業としてどのような結果を出すべきですか?
このブランドは貴社にとってどのような意味(価値)を持つものですか?

Positioning:ポジショニング
競合ブランドと比較して、何が優れていて、それはユーザーにどのようなベネフィットを与えますか?
他のカテゴリーや産業で、お手本にしたいブランドは何ですか?
このブランドが、NO.1ブランドであると言い切るなら、どのようなカテゴリーになりますか?

Core Promises:お客さまへの約束
ユーザーに約束できる最も優れた事実は何ですか?
ユーザーに約束できるベネフィットを一言で言うとどうなりますか?

Personality:トーン&マナー
このブランドを人にたとえるとどんな人でありたいですか?性別、年齢、職業、趣味、外見、性格、評判はどうありたいですか?
このブランドを色で表現するとしたら、楽器で表現するとしたら、動物で表現するとしたら、カタチで表現するとしたら?

データを共有する

クライアントとパートナーは、それぞれが持っているデータを共有しましょう。

パートナーは、クライアントから与えられた目標達成を目指しながらも、「KGI > KPI > アクション指標」 の階層性を理解して、常に上位目的に対して目を向けることが大切です。

この絵のように、関係者が目標達成の構成要素を理解し、それに関わるデータにアクセスできる状態が理想的です。データにアクセスできないと、パートナーの限定合理性が生まれてしまいます。広告の成果(セッションやCVR)が良かったので喜んでクライアントに報告すると、「実はLTVは下がっていて…」とか、「解約率が増えていて…」といった結果を招き、状況認識にギャップが生まれてしまうことも少なくありません。

そこで役に立つのがダッシュボードです。たとえば、弊社のあるクライアントでは、こんな使い方をしています。

ダッシュボードの活用目的が、単なる「報告業務の工数削減」だと不十分です。大切なことは、情報の非対称性を小さくし、できるだけ限定合理性を働かせないようにすることです。

高頻度でクイックなMtgをする

月に1-2回の「長い、低頻度の面談」よりも、毎日15分や、毎週30分といった「短い、高頻度の面談」をやりましょう。昨今のビデオ会議の普及を見ても、現実的なアプローチだと思います。

情報の非対称性は、時間軸の観点も大切です。「それ、2週間前に知っていたら、このアイディアは実施しなかったのに…」といったことも起こりえます。また、顔を合わせる頻度が少ないと、パートナーは面談資料を作り込みがちです。2週間や1ヶ月分の「仕事の成果を示さなくては」という力学が働くためです。

面談資料は、説明コストの塊です。説明コストは、受注者のコストであると同時に発注者のコストでもある、という認識を持つことが大切です。成果はダッシュボードなどを通じてリアルタイムで共有をしながら、考察や論点については、体裁にこだわらないメモ書きでまとめる、といったスタイルが理想的です。私たちのお客さまの多くも、そのようなスタイルに変わりつつあります。

定期的に「プロジェクトの振り返り」をする

定期的に「プロジェクトの振り返り」をしましょう。

ビジネス目標に対する直接的なパフォーマンス評価だけではなく、支援体制やサービス品質そのものに対しての評価をもらいます。繰り返しになりますが、情報の非対称性はできるだけ減らさなければなりません。定期的にクライアントの期待と現状とのギャップを知ることが大切です。

弊社のNSP調査では、推奨意向の質問に加えて、下記の7項目について0~10点満点で評価をしてもらい、さらに詳細なコメントをいただきます。マネージャー以上の役職者がすべてのお客さまにお伺いし、ヒアリングをします(いまはビデオ会議で実施しています)。クライアントには、日々現場でやりとりしているご担当者に加えて、役職者の方にもご参加いただきます。

パートナーサミットを開催する

こちらは、弊社と資本提携をしているアタラ合同会社の取り組みです。

アタラさんは、日本旅行さまの支援において、定期的に「NTA(ニッポン・トラベル・エージェンシー)サミット」を開催されています。デジタルマーケティングの関係者が一同に会して、役割に応じたマーケティング課題を共有する会議です。ポイントは、外部支援会社やプラットフォーマーが集まって課題を共有する点です。

同社ではさらに、他のチームとの横のつながりを強化するため、ICT営業推進部のメンバーが一堂に会して、役割に応じたマーケティングにおける課題感を共有しながら、外部のコンサルタント・スペシャリストも交えて議論する「NTAサミット」を年に一度開催している。

こちらの記事に、「広告代理店にアウトソーシングした場合、代理店との窓口担当者の発注の仕方で施策が決まってしまう」という日本旅行さまの言葉があります。まさに、情報の非対称性からくる限定合理性の弊害です。このNTAサミットこそ、まさに先述の「従来のブランドマネージャーの役割を “リーダー” から “オーケストレーター” へとシフトさせる必要がある」という理想を体現しているように思います。

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以上が、情報の非対称性を小さくし、できるだけ限定合理性を働かせないようにするための、私たちがクライアントと一緒に取り組んでいる仕組みの一部です。

おわりに

さいごに、書籍『寝ながら学べる構造主義』より、この言葉を引用したいと思います。

技芸の伝承に際しては、「師を見るな、師が見ているものを見よ」ということが言われます。弟子が「師を見ている」限り、弟子の視座は「いまの自分」の位置を動きません。


引用:寝ながら学べる構造主義 / 内田 樹【著】

言い換えれば、最高のクライアントワークを実現したいなら、「クライアントを見るな、クライアントが見ているものを見よ」。うまくいかないときは、「クライアントを見て」しまっているのだと思います。

変化の激しい環境では、パートナーはクライアントのことを知り、クライアントのように考え、信頼されたパートナーとして自律することが求められます。そのために、「契約ではなく信頼」によって支えられたアジャイルなチームが必要なのです。

私たちは、これからもクライアントと共にアジャイルなチームづくりを目指していきます。本記事が、クライアントとパートナーのより良い関係づくりの一助になれば幸いです。

※NPS®は、ベイン・アンド・カンパニー、フレッド・ライクヘルド、サトメトリックス・システムズの登録商標です。