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オーリーズの顧客志向の組織づくり 〜NPS®(ネット・プロモーター・スコア)の運用〜
オーリーズではNPS®(ネット・プロモーター・スコア)を導入しています。
私たちは、NPS®を売上や利益、契約継続率といった経済的な価値につなげることに加え、「ミッション, ビジョンの実現度合いを測定するための仕組み」としても役立てています。
本記事では、実際のスコアとともに、私たちなりのNPS運用についてお話します。
注:NPS®は、ベイン・アンド・カンパニー、フレッド・ライクヘルド、サトメトリックス・システムズの登録商標です。
目次
NPS®とは
NPS®とは、2003年に提唱された「顧客ロイヤルティ」を知るための指標です。顧客の「満足度」ではなく「推奨意向」を測定指標とすることが最大の特徴です。
具体的には、「この企業(あるいは製品/サービス)を親しい人に勧める可能性はどれだけありますか?」という質問に対する答えをもとに、0~10点(11段階)の推奨度によって、顧客を3つのグループに分類します。
ある調査では、従来の「満足度」を問うような調査方法では、顧客満足度と企業の成長(継続購入や推奨)との間に、統計的な相関が見られなかったと結論づけられています。一方、NPSは業績相関性が高いことが証明されています。
顧客の「満足」という移ろいやすい心理的な状態ではなく、「親しい人に勧める」という行動に基づく指標であることが、NPS®のブレイクスルーと言えます。
※具体的な計算方法や、各分類のスコアに対する解釈などを知りたい方は、こちらのリンクが参考になります。また、上記の調査内容は 書籍『ネット・プロモーター経営』 をご参照ください。
私たちのNPS®設計と実際のスコア
オーリーズのNPS®「SQ(サービス・クオリティ)」
オーリーズでは、NPS®を「SQ(サービス・クオリティ)」と命名し、以下の質問項目を設定しています。
質問項目
(1) オーリーズのサービスを、上司・他部署・社外の知人の方にどの程度お勧めしたいと思いますか?
(2) そのように思われた理由はなんですか?
(3) 次の観点で満足度は0~10点満点でいくつですか?
- 広告の効果
- 広告運用の知識と運用スキル
- ミスの無さと確実性
- コミュニケーションと業務対応のスピード
- 仮説検証フィードバックの量・質
- 貴社ビジネスの要点と中長期戦略の理解度
(4) 担当の総合評価を10点満点でお聞かせください?
SQは、半年に一回(年2回)の頻度で全クライアントに対し、経営陣もしくはマネージャーが訪問し、デプスインタビューを実施します。クライアントには、現場担当者、その上席、決裁者の方にご参加をいただきます。
そして、NPS®にはクローズド・フィードバックループが重要であると言われるように、推奨意向改善のためのプロセスも用意しています。
具体的には、SQ調査実施の翌日には、その内容が支援のチームリーダーにフィードバックされ、チームリーダーによって改善MTGが開催されます。改善MTGから導き出された改善アクションは、1ヶ月以内の面談内で顧客に展開されます。
ちなみに、NPS®は他社との相対的な成績を示すトップダウン調査(※1)も実施した方が、効率的な改善ができるとされています。私たちの場合は、自社の顧客数が多くないことや、NPS®導入の立ち上げ期であることから、現時点ではボトムアップ調査(※2)のみを実施する方針としています。
(※1) トップダウン調査:調査会社などを利用して、自社のみならず競合他社の顧客サンプルを取り、自社のNPS®を相対的に評価すること。
(※2) ボトムアップ調査:自社の顧客に対してのみ調査を行い、自社のNPS®を算出し絶対値を評価すること。
実際のスコア
実際のスコアですが、直近(期間:2018年6月~12月)の実績は50ptでした。
本記事ではじめてNPS®を知った方は、あまりピンとこない数値かもしれません。また、トップダウン調査をしていないので、客観的な評価ができないのですが、この業界では、おそらくなかなかの好成績だと自己評価をしています。
なぜSQが重要か、なぜ導入したのか
NPS®の成功事例は、BtoCの業態が引き合いに出されることが多いです。
回答サンプル数の多さや調査のリアルタイム性から、経済性を証明しやすいことが主な理由です。書籍『ネット・プロモーター経営』でも、NPS運用の原則として「調査単位を細かくして、より早く学習サイクルを回す」ことを掲げています。
一方で、現在私たちが支援している顧客数や、マーケティングの外部支援といったBtoB事業では、細かく早くフィードバックを回すというコンセプトは適していません。サンプルが少ないので、統計的に経済性を証明することも難しいです。
ですので、私たちはNPS®に「ミッション, ビジョンの実現度合いを測定するための仕組み」という役割を与え、そこに比重を置いています。
具体的には、経済性への貢献に加えて「一緒に働くメンバーの働きがい」や「アジャイルなチームづくり」の実現度合いを計測することを目指しています。
“良い利益”にこだわる
売上や利益といった財務指標は、言うなれば、「企業の経済取引を一律に評価する仕組み」です。利益に直結しているため、経営の善し悪しを客観的に評価することに優れています。しかし、私たちのミッションの実現度合いを測定するには、 財務指標だけでは不十分であると考えています。
オーリーズには、「あなたを、叶える。」というミッションを掲げています。これは、「顧客」と「一緒に働くメンバー」の双方に向けられたものです。
一緒に働くメンバーには、「顧客を大切に想い、顧客と向き合える環境をつくる」ことを約束しています。そうすることで、顧客と深い協業関係が生まれ、皆がいきいきと働くことができると信じています。
たとえば、「顧客を大切に想えていない」「向き合うことができていない」という状態には、こんなことが挙げられます。
- 遅いレスポンスや作業・度重なるタスクの遅延
- ミスの多発・場当たり的な作業
- 説明の不十分、あるいは虚偽の説明
- 成果悪化が予測される中で実施される、利益を優先とした広告配信
- 政治的事情による効果の見込めない施策の実施
- 内訳の分からない料金体系、紛らわしい価格設定
- 情報の非開示や提供拒否
- 課題設定や追加提案ができない、ルーティンタスクに終始する
- 一方的な命令、明らかな主従関係
これらのことが、ビジネス目標の達成にどれほど悪影響を及ぼすかは、はっきりと定量化されることはありません。
ただ、間違いなく言えることは、この状況下では、顧客やメンバーは「もやもや」とするはずです。理想的な関係ではないと感じると思います。
このような関係で進められる仕事は、メンバーの良心を傷つけ、成長を停滞させてしまうことにつながります。短期的には顕在化しない問題かもしれませんが、”遅れ”を生じて組織や個人を蝕んでいきます。顧客もメンバーも悪しき習慣にマヒしてしまいます。
私たちは、このような顧客やメンバーの関係性を犠牲にして得られる利益をできるだけ減らして、いきいきと働ける環境を作りたいと思っています。その環境の実現度合い計測するためにSQを導入しています。
私たちの組織では、支援の現場に売上目標はありません。売上は経営陣とマネージャーがコミットします。一方で、SQの改善は現場がコミットします。現場のチームは、機能横断的な役割分担によってバリューチェーンを短くし、個人の貢献をダイレクトに顧客に届けてもらいます。そして、SQという形で顧客からフィードバックを得ることで、メンバーには「顧客を大切に想い、顧客と向き合う」ことの喜びを感じてもらいたいと思っています。
直近の調査で、面白い結果がありました。
先述した「質問3」の中の「広告の効果」のスコアが6や7だった顧客でも、全体の推奨意向が9や10だった案件が何件もありました。私たちがもっとも貢献しなければならない「広告の効果」が低スコアだったとしても、顧客は私たちを「強く推奨したい」と考えてくださいました。
これは、顧客を大切に想い、顧客と向き合っていることの結果だと考えています。また、広告効果では解決できない問題に対し、ともに戦う「マーケティングパートナー」として、評価をいただいているとも言えるかもしれません。
以下に、定性コメントの一部をご紹介します。
A社
■広告の効果:7点
広告目標(ROAS, 新規率などのKPI)の達成状況に関しては良好だが、ECサイト全体が活性化していないため大満足ではない。EC全体の売上が未達である以上、10点とはいかない。あと、広告KPIについてもまだ手探りなところがあり、カチッとはまっているわけではないので7点。■コミュニケーションと対応のスピード:10点
とても丁寧に運用をしていただいている。私たちも管理画面を見ているが、自動化機能を利用して運用するところも、人的なケアをすべきところも、うまく使い分けて運用しているなと思う。slackでのやりとりしているが、レスポンスがとても速い。タスク管理やレポーティングも、しっかりとした仕組みが用意されていて、コミュニケーションが非常にスムーズだと思う。漠然とした疑問や不安に対しても、いつも丁寧にアドバイスしていただいている。
B社
■広告の効果:6点
経営陣からの期待値が高い。それがゆえに成果が追いついていない。正直なところ、検索広告ではもう少し成果を上げて欲しい。■コミュニケーションと対応のスピード:10点
レスポンスが早い。的確で誠実、正直。成果や業務に対して曖昧であったり、いい加減に対応することが全くない。
C社
■広告の効果:7点
100%満足かといえば、正直なところもっと成果を期待したい。特にショッピング広告について改善をしたい。もちろん、課題は広告だけではなくECサイト全体にもある認識。また、支援範囲の議論にはなるが、他パートナーと施策を進めるときにも、オーリーズが主導でやってもらえると嬉しい。施策のパターンが増えて、成果改善に広がりが生まれると思う。
■コミュニケーションと対応のスピード:10点
チャットや面談時で質問したときに、いつもはっきりとした答えがかえってくる。持ち帰りがない。回答後に疑問が残らない。複数社と取引しているわけではないので比較はできないが、強くそう感じている。
D社
■広告の効果:7点
担当してもらっている事業(アカウント)については、まだ十分な成果を上げることはできていない。ただ、前代理店と比べて運用の品質は上がっていると感じている。■コミュニケーションと対応のスピード:9点
早い。的確。無駄がない。ビジネスコアスキルの高さを感じる。今までのビジネス人生の中で接触してきた、パートナー企業の対応スピードで言うと、5本の指に入る。感動的なスピードと的確さ。10点じゃないのは、量の面ではこなしきれないのでセーブしている側面がある。また、うまくいかない事象に遭遇したときの深堀のスピード、報告のタイミングが非常に気持ち良い。深すぎないし、遅くないというバランスが良い。
私たちはミッションに基づき、財務指標に直接的には現れることのない「良い利益」にこだわりたいと思っています。
顧客と共にアジャイルになる
もう一つ重要な目的があります。それはビジョンの実現です。
私たちは「アジャイルマーケティング・エージェンシー」というビジョンを掲げています。
VUCAワールドと言われるこの時代、未来のことも他人のことも、より分かりづらくなっています。分からないことが多い環境では、理性主義的ではなく、経験主義的な態度で取り組んだ方が上手にものごとを実現することができます。[参考記事]
ゆえに私たちは、顧客とのアジャイルなチームづくりを目指しています。それが、外部支援会社としてマーケティングで成果を出すために必要な条件だと考えているからです。
そして、アジャイルであるためには、顧客と共に機能横断的で自己組織化されたチームをつくる必要があります。端的に言えば、「問題が与えられたら、制約の中でチームで解決策を考え、決定し、実行から改善までをする」ことです。そのためには、お互いを尊敬し、信頼関係を構築しなければなりません。
この実現を目指して、私たちはいくつかのこだわりをもっています。例えば以下のようなものです。
- オーリーズの顧客担当は、主要媒体の運用経験を有している
- アカウントは、開示可能なものはすべて開示する(できれば顧客自身での開設を推奨)
- 3rd Party計測ツールや1stpartyデータは開示、共有をいただく
- 顧客の課題に応じたアドホックなレポーティングとモニタリング環境づくりを基本とする
- バックログやカンバン等の管理手法を導入する
これらの仕組みを通じて、理想的なチームづくりができているかを測定するためにSQを導入しています。
顧客とのチームビルディングには、短期的でない指標が必要です。短い期間で成果が出なくても、顧客から仮説検証のプロセスを評価されれば、次の成功に向けて進むことができます。アジャイルチームをつくるためには、信頼関係を築くためのフィードバック機会が大切だと考えています。
“組織構造が文化をつくる”
大規模ソフトウェア開発のフレームワークである「LeSSフレームワーク」を考案したクレイグ・ラーマン氏は、ソフトウェア開発の組織論で「ラーマンの法則」を提唱しています。そこには以下のようにあります。
組織構造が文化を作ります。もしくは、体制や組織設計が文化、振舞い、マインドセットに影響を及ぼすといってもいいでしょう。すなわち、あなたが本当に文化を変えたいのであれば、組織の構造を変えなければなりません。それ以外に文化を変える方法はありません。
http://seattlescrum.com/Larman’s-Laws-(日本語)/
私たちは、「顧客を大切に想い、顧客と向き合う」組織作りを、このSQの運用によって形にしていきたいと思います。