ダッシュボードを使ったアジャイルマーケティングの実践 〜広告主と広告代理店がひとつのチームになるために〜

ダッシュボードを使ったアジャイルマーケティングの実践 〜広告主と広告代理店がひとつのチームになるために〜

今回は、広告代理店である私たちがクライアントの支援に取り入れている、効果的なダッシュボードの活用例をお話します。

弊社が活用している主な ダッシュボードサービスは、ビジネス最適化プラットフォーム DOMOGoogleデータポータル(GDP) です。今回は、DOMOを例に挙げてお話します。

前提として、弊社の広告代理店としての特徴は以下のとおりです。

  • 全クライアントで直接取引をしている(下請けなし)
  • 全クライアントでオープンアカウントである(クライアントに広告アカウントのアクセス権を付与)
  • 全クライアントから Google Analytics の閲覧権限をもらっている(あるいはその他3rdParty計測データの共有)
  • ほぼすべてのクライアントで、日次での成果報告をしている(クライアントが求める場合)

支援にあたり、広告アカウントやアクセス解析ツール、広告効果測定ツールなどの情報は、双方で開示することを基本としています。

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「報告業務の効率化」はダッシュボードの主目的ではない

まず、弊社が DOMO 導入当初に設定した目的は、「クライアントへのレポーティング業務の効率化」でした。

各支援で担当が作成しているレポート(主に Excel や Googleスプレッドシートなどの表計算ソフト)をDOMOで表現することで、レポーティング業務を効率化・高速化しようという狙いです。

結論として、この目的はすぐに変更されました。いくつか理由はあるのですが、最も大きな理由は「クライアントの担当者は広告指標だけ見ているわけではない」という当たり前の事実です。

弊社が作成しているレポートは、当然ながら運用型広告を中心としたものです。一方で、そのレポート受け取るクライアントの担当者は、広告以外にもSEOやアフィリエイト、ソーシャルメディア運用、メルマガ、CRMなど、多様な施策に関わっていることが多いです。

クライアントの担当者は、日々さまざまなデータを見ながら全体最適を考えていますから、広告情報が Excel からブラウザ(ダッシュボード)になったところで、全体最適のための集計作業を必要とし、落ち着くところは表計算ソフトだったりします

また、重要な観点として、代理店のレポーティング業務の効率化はクライアントにとっての直接的な価値ではない、ということです。

ダッシュボードの導入目的を「代理店のレポーティング業務効率の向上=コストの圧縮」としては不十分だと考えています。効率向上によって、 クライアントの求める最終的なアウトプットを短納期化させることや、代理店の手数料を低料金化するなどをしてこそ、顧客体験が向上します。代理店である私たちの DOMO導入目的は、どこまでいっても顧客体験の向上であるべきです。

これらのことを鑑みて「広告成果の報告に限定するなら、まだ Excel の方が良い」という結論になりました。

目的は「キャンペーンマネジメントのテンポをあげる」こと

では、クライアントの顧客体験向上のために、あるいは支援で成果を出すために、ダッシュボードはどんな目的で活用されるべきでしょうか。

出てきた答えのひとつが、「キャンペーンマネジメントのテンポを上げること」でした。

冒頭の話では、ダッシュボード活用の目的を「既存業務の効率化」としたこと、つまり「手段から考えたこと」で目的設定を誤りました。そこで、改めてダッシュボード活用の理想形について考え、以下のように定義づけました。

ビジネス目標の達成に影響を与える要素を、包括的かつ構造的に数値や指標として分かりやすく可視化し、目標達成に向けて組織やチームのアクションにつなげる手助けをするもの”

図で表すと、以下のようなイメージです。

組織の目指す上位目標に対して、包括的かつ構造的に下位目標が整理されていて、それが分かりやすく可視化されている。それが組織やチームに共有され、個人の役割と貢献性を理解することで、組織活動の効率を上げることができるイメージです。

この定義で最も大切なことは「組織やチームのアクションにつなげること」です。「見やすい」「分かりやすい」「手間が省ける」といった表面的な価値だけではなく、目標達成につながる行動に変わってこそ、ビジネス価値につながります。

そのためには、ダッシュボード単体でその役割を考えるのではなく、行動につながるプロセスを設計することが重要です。

そのプロセス設計に、わたしたちは「スプリント」を持ち込みました。

スプリントとは、アジャイル開発方式のひとつである「スクラム」のアクティビティです。

端的にいえば、1ヶ月以内で「計画 → 設計 → プログラミング → テスト → レビュー」までを行うプロセスのことを言います。この「1ヶ月以内で1回転するアクティビティ」をスプリントと言います。

※ちなみに、スプリントの実践(≒スクラムの実践)には、「機能横断的で自己組織化されたチーム組成」「明確なロール」「目的が明確なタイムボックス化された会議体」などの、高度なチームビルディングとプロセスマネジメントが必要です。詳しくは、『アジャイルの起源から、アジャイルマーケティングを考える』をご覧ください。

ソフトウェア開発では、スプリント1回転のゴールを「利用可能な、リリース判断可能なプロダクトをつくること」と定義していますが、マーケティングのキャンペーンマネジメントでは、「KPIに好影響を与える仮説を検証すること」に主眼を置きます。

例えばあるECサイトの運用で、以下のKPIが設定されていたとします。

  • 広告経由売上では「ROAS 500%以上」を目指す
  • ブランドワードを除く広告経由売上では「ROAS 300%以上」を目指す
  • サイト全体のセッション新規率は「30%以上」を目指す
  • 新規の会員比率は「横ばいかそれ以上」を目指す

このようなKPIに好影響を与える施策を考え、スプリントで実行します。

スプリントで実行する施策を考えるにあたり、「計画型タスク」「発見/仮説型タスク」という観点で管理をするのがお勧めです。

「計画型タスク」は、媒体社やベンダーから提供される新機能やサービス、または他社の成功事例といった、代理店としてクライアントに提供すべき「成功確率の高い、やってみたほうがいいこと」です。「発見/仮説型タスク」は、日々の観察から得た気づきです。

KPIに好影響を与えるアイディアや施策は、観察が起点になるものもあれば、新しい機能やサービスが起点になることもあるので、それらをミックスしながら仮説検証を進めていこう、という考え方です。

そして、これらの観点から出てきた施策案を、プロジェクト管理ツールに「バックログ」としてガシガシ登録していきます。クライアントからの要望があれば、それも登録します。プロジェクト管理ツールは、Backlog や JiraCore などがお勧めです。

そしてそれを、2週~1ヶ月ほどのスパンでクライアントと一緒に優先順位付けをします。多様な施策が並んでいる中で、KPIに好影響を与える優先すべき施策は何かを考え、次のスプリントで完遂すべきタスクを決めます。

スプリントがスタートしたら、優先順位付けしたタスクを完遂できるように、「デイリースクラム」というクイックなデイリーミーティングを開催します。これは Facetime や Zoom といったテレビ通話システムを使って実施しています。

デイリースクラムのポイントは、「スプリント完遂の障害になることを取り除くこと」にフォーカスしたMTGであるということです。デイリースクラムでは、以下のことだけを確認します。

  1. 昨日何をしたか?
  2. 今日何をするか?
  3. スプリントの妨げになる障害は?

デイリースクラムでは、抽出された障害に対して、その場で議論や解決をしようとしてはいけません。それらはスプリントの中で潰していきます。

また、スプリントを完遂させるためには、クライアントとは密なコミュニケーションを必要としますので、やりとりにはチャットサービスを使います。

ここでは「クライアントと代理店」という立場上の関係性をできるだけ持ち込まず、対等なコミュニケーションを心がけています。たとえば「お世話になっております」や「何卒よろしくお願いいたします」といった言葉を一つとっても、無自覚のうちの心理ハードルを生んでしまいます。それらはできるだけ排除して、軽量なやりとりを心がけます。

そして、ここでようやく DOMO の登場です。

ここではダッシュボード(DOMO)は、スプリントで実施される「KPIに好影響を与える施策」の結果をモニタリングするという役割に徹してもらいます。

ポイントは「キャンペーンマネジメントのテンポを上げること」を目的として、それを実現するために DOMO を活用している、ということです。

DOMO 導入当初は、先のとおり「レポーティング」という限定された業務をリプレースすることを目的としていました。しかし、そのレポーティングも既存プロセスの一部を担っているわけですから、部分をリプレースしても噛み合わせが悪くなってしまいます。

このように、ダッシュボード単体でその役割を考えるのではなくプロセスを設計することで、組織やチームの行動を促すことにつながります

DOMO ダッシュボードの参考例

最後に、実際に組み上げた DOMO のダッシュボードの一部をご紹介します。(例に挙げるのは、BtoC のECサイトです)

まず以下の3枚が、組織の目指すべき目標=KGIです。収益、広告費、ROASの目標/実績を、単月/累積で表示します。データソースはクライアントから共有を受けているGoogleスプレッドシートのデータを参照しています。

次に、KPIとアクション指標です。

例えば、KPIには以下のような指標を設けています。(数値は仮で入れています)

  • 広告経由売上では「ROAS 500%以上」を目指す
  • ブランドワードを除く広告経由売上では「ROAS 300%以上」を目指す
  • サイト全体のセッション新規率は「30%以上」を目指す
  • 新規の会員比率は「横ばいかそれ以上」を目指す

このKPIに好影響を与える施策を実施し、数字の推移を追います。いくつかピックアップしてご説明します。(【】はデータソース)

下の画像をご覧ください。

左上の赤枠の数字「31%」というのは、当月のサイト全体のセッション新規率です。 【Google Analyticis】

右隣の青枠の棒グラフは、そのセッション新規率の推移を月ごとに表示しています。リターゲティング施策などは、直近の集客状況に成果が左右されるため、前後関係を把握することは大切です。【Google Analyticis】

さらに隣の緑枠の数字「30%」というのは、当月のリターゲティング広告配信量の割合です。セッション新規率は、リターゲティングの配信量と相関しますので、運用方針の参考にします。【glu(広告レポート作成システム) 】

真ん中右の小さなオレンジ枠のは、ブランドワードを除く広告施策のROASです。このサイトでは、ブランド名のクエリに対しても検索広告を配信しているため、それを含んだ全体のROASで評価をすると、広告の評価が曖昧になります。ブランド名を除いたROASをリアルタイムで集計することで、収益の底上げに貢献している広告の成果を認識します。【Google Analyticis × glu】

左下の黒枠の棒グラフは、Google 広告の「スマートディスプレイキャンペーン(SDC)」のセッション数と新規率です。SDCは、目標とするCPAとクリエイティブアセットを設定すれば、「入札」「ターゲティング」「クリエイティブ」を自動調整して配信をしてくれるプロダクトです。注意点として、SDCのターゲティングは、新規ユーザーと来訪ユーザー(リターゲティング)をブレンドしながら配信します。ゆえに、設定した目標CPAの高低によって新規率が上下する特徴があるため、それをモニタリングすることで、新規とリターゲティングのバランスを取ります。【Google Analyticis】

続いて、下の画像をご覧ください。

真ん中左の赤枠の棒グラフは、広告経由のデバイス比率です。最近ではどのプラットフォームも、目標とするアクションとCPAを設定すれば、あとは配信対象とするデバイスはおまかせ、というケースが多くなっています。ゆえに、「思いのほかモバイルへの配信量が増えていて、クリック単価は低いが、同時に収益やLTVも低い」といったことが発生することがあります。広告経由のデバイスの偏りをモニタリングすることで、想定外しない成果の偏りを回避します。【Google Analyticis】

真ん中左の青枠の棒グラフは、月間のECサイト会員種別ごとの収益推移です。「新規会員」「既会員」「会員登録なしでの購入」の3つを定点観測しています。このECサイトでは、会員登録なしでの購入者はLTVが低い傾向があるため、「単月の収益は増加したが、会員登録なしでの購入が多かった」といった状況が確認された場合、対策が求められます。【ECシステムのデータベース】

以下は、広告プラットフォームごとの情報です。インプレッションからCPAまでの主要指標を媒体ごとにモニタリングすることで、上記で説明してきた指標に変化があったとき、各媒体にドリルダウンするイメージでその原因を探ります。【glu】

以上が、広告代理店である私たちがクライアントの支援に取り入れている、効果的なダッシュボードの活用例です。

ダッシュボードの導入は、行動につながるプロセスを設計したうえで、そこに組み込むことがポイントです。そうすることで組織やチームの行動につながり、ダッシュボード活用をビジネス価値につなげることができます。

私たちオーリーズは、運用型広告に軸足を置きながら、アジャイルなマーケティングを実現するための環境づくりを支援することで、 クライアントのマーケティングの価値向上に貢献していきます。

本記事が、みなさまの BI/ダッシュボード導入・活用の助けになれば幸いです。

オーリーズは、クライアントの「ビジネス目標達成」に伴走するマーケティングエージェンシーです。

「代理店の担当者が自社の業界・戦略に対する理解が不足しており、芯を食った提案が出てこない」
「新規の広告出稿に関する提案が中心で、最終的なビジネスゴールに紐づく本質的な提案がもらえない」
「広告アカウントが開示されないため、情報が不透明で自社にノウハウやナレッジが蓄積しない」

既存の広告代理店に対してこのようなお悩みをお持ちの場合は、一度オーリーズにお問い合わせください。

オーリーズの広告運用支援では、①運用者の担当社数の上限を4社までに制限②担当者のKPIは出稿金額ではなくNPS(顧客満足度)③アカウントは広告主が保有することを推奨 しており、目先のコンバージョン増加にとどまらず、深い事業理解を基にしたマーケティング戦略の立案や実行支援が可能です。

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この記事を書いた人

株式会社オーリーズ

取締役副社長

足立 誠愛

在学時に現代広告の研究室に所属。実践主導の研究活動を通じて広告コミュニケーションを学ぶ。その後にワークスアプリケーションズのインターンシップに参加し、最高ランクの評価を獲得し、同社に入社。ERPパッケージ「COMPANY」導入・保守運用部門のコンサルタントを経て、アカウントマネージャーとして顧客の最終責任を担い、クライアントと組織のROI向上に邁進。2013年より株式会社オーリーズ取締役副社長に就任、事業開発を担う。

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