AIを育てるつもりが、逆に自分が育っていた話

AIを育てるつもりが、逆に自分が育っていた話

AIを使えば、もっと仕事が楽になると思っていました。

でも実際に使い込んでみると、なかなか思った通りに動かなくて、逆に修正の手間を取られることのほうが多かった。

AIワークフローの開発過程で気づいたのは、「AIで楽をできるかどうかは、使い手の言語化能力次第だ」ということです。

この記事では、AIワークフローを使って業務を自動化しようとした私が、その過程で得た学びをお届けします。

楽になるために、AIで業務を自動化しようとした

私は広告代理店でインハウスマーケティングを担当しています。SEO対策、SNS運用、Webサイト改善、インサイドセールスなど、複数のプロジェクトの企画・実行・改善を担当しています。

当時の私は、まさに日々のタスクに追われていました。気づけば、目の前の業務をこなすことに精一杯で、本当にやるべきことが後回しになっている。

そんな状況を変えたくて、AIに業務を任せられないかと考え始めました。ただ、ChatGPTなどAIアシスタントに毎回プロンプトを投げて、結果を見て、修正して、再度指示して…というやり取りをする形式だと、結局手間が残ってしまう。

そこで試してみたのが、半自動で業務を実行するAIワークフローの構築でした。SEO記事の制作手順をまとめた指示書ファイルをCusorに読み込ませ、与えたキーワード情報をもとに、ペルソナ設計から記事納品までを半自動で実行するシステムです。

目的はシンプル。AIを活用して、より重要な仕事に集中できる時間をつくること。

限られた時間でより多くの価値を出すために、AIに任せられることは任せてみよう。そんな発想から動き出しました。

「動くAI」と「成果を出すAI」の差を痛感

最初の一歩は、社内外のAIワークフローの開発経験者に話を聞くことから始めました。

「まずは60点くらいのプロトタイプを作ってみるといい」とアドバイスをもらい、サンプルを参考にしながら形にしていきました。

数日後、AIワークフローが自動で動き始めたときは、正直興奮しました。自分が設計したシステムが定義したプロセス通りに機能している様子を見て、「これはいけるかも…!」という感覚を持ったからです。

ただ、出力結果を確認してみると、内容の精度は想定よりもずっと低く、設計書に書いた指示を無視しているケースも多い。指定していない情報を勝手に補ってしまうこともありました。

システムを動かすこと自体は成功でしたが、実用には程遠い。このときに強く感じたのは、「AIを動かすこと」と「AIで成果を出すこと」は、まったく別の話だということです。

AIを育てるには「使い手が育つ」しかなかった

いろいろトライしてみて次第に見えてきたのは、AIを自分の分身にするためには、自分自身がAIに任せられるだけの力を持っていなければならないということでした。

AIに業務を代替させようとするとき、必要なのはツールの知識よりも、自分の仕事をどこまで構造的に理解しているか、そして暗黙知を言語化する力です。

普段、無意識のうちにやっている判断や言葉の選び方、優先順位付けなどを言語化し、AIが理解できる形に翻訳できなければ、AIは正しく動きません。

たとえば、SEO記事を制作するときの「良い記事」とは何か。頭では分かっていても、それを明確なルールとして言語化しようとすると、途端に曖昧になります。

  • どんなタイトル・構成が理想なのか
  • どんな文章トーンなら読者に届くのか
  • 何をもって「読後の満足度が高い」と判断するのか

これらをAIが理解できるレベルにまで分解し、言葉で定義するには、業務プロセスに関わる暗黙知を形式知化する必要がありました。

暗黙知を言語化することで、思考が磨かれていく

AIに業務を理解させようとすればするほど、自分の言葉の曖昧さに気づかされました。

普段は感覚で判断していることも、AIに伝えるとなると、言葉にして説明しなければならない。

「なんとなく良い」「違和感がある」では通じず、どんな基準で判断しているのかを明確にする必要がありました。

そこで始めたのが、AIとの対話を通じて自分の考えを整理することです。

「この業務をAIに任せるには、どんな情報を与えればいいか」
「なぜ自分はその順番で考えていたのか」
「アウトプットの質を左右する重要な要素は何か」

こうした問いをAIに投げてもらいながら、自分の思考を言葉で解きほぐしていきました。

その過程で鍛えられたのは、言語化能力だけではありません。業務全体を構造として捉える力、課題を分解して整理する力、判断を裏付けるための知識や経験。

言語化を突き詰めようとするほど、思考の土台となる力も同時に磨かれていきました。

AIを育てようとした結果、育てられたのは自分だった

「AIで業務を自動化して楽をしたい」という出発点は間違っていなかったと思います。けれど、AIに任せるほどに、結果的に自分の言語化能力が鍛えられていきました。

曖昧だった判断基準を言語化し、業務の構造を見直し、何が本質的な価値なのかを考え直す。AIを育てるつもりが、逆に自分が育てられていたのだと思います。

楽をしようとした先に、自分が成長する機会が待っていた。けれどそのおかげで、AIの使い手としての基礎体力がついたと感じています。

この記事を書いた人

株式会社オーリーズ

ストラテジスト

頼富 穰

早稲田大学在学中、リクルートにてヘルステックサービスの拡販に従事。 パーソルキャリア株式会社でプロシェアリングサービスの法人営業・PMOを経験した後、オーリーズに入社。 BtoB/金融/人材業界の広告運用支援に従事した後、インハウスマーケティング部門に異動。現在はオーリーズブログの編集長として、コンテンツマーケティングに従事している。

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