【広告運用研究会】媒体に何を学習させれば、成約に近づくのか ── 2社の事例から考えるCV設計の判断軸
今回は、「媒体に何を学習させれば、成約に近づくのか」というテーマで、広告運用研究会で議論した内容を整理しました。
目次
広告運用研究会について
オーリーズでは、コンサルタントが特定のテーマについて運用事例をディスカッションする「広告運用研究会」という取り組みをおこなっています。
AIの進化で、広告運用の知識やベストプラクティスは以前より手に入りやすくなりました。一方で、特定の状況下で誰が何を判断し、その結果どうなったかという一次情報は、なかなか表に出てきません。
この記事では、研究会で議論した内容を公開することで、現場の一次情報を比較できる場を作れればと考えています。
成約に近い成果は、そのまま学習に使えるとは限らない
BtoBや人材など後工程のあるビジネスでは、商談や面談のような「成約に近い成果」を媒体に学習させることで、歩留まりの改善が狙えます。
ただ、成約に近い成果をそのまま媒体に渡せば、必ず成約に近づくわけではありません。
成約に近い成果は、事業上の価値が高い一方で、
- 量が少ない:発生件数が少なく、媒体が学習するのに十分なデータが溜まりにくい
- 遅れて届く:発生までに時間がかかり、学習への反映が遅れやすい
- 媒体が見分けられない:事業上重要なシグナルが、媒体が配信前に判別できるシグナルと一致しないことがある
といった事情がある。そのため、そのまま渡しても、媒体が安定して学習できるとは限りません。
今回研究会で持ち寄った2社も、成約に近い成果をそのまま媒体に学習させられる状況ではありませんでした。
では、2社はどのように対処したのか。各社のアプローチは異なりますが、共通していたのは、成約に近い成果を媒体が学習しやすい形に置き換えて渡した点です。
| ケース | 成約に近い成果 | アプローチ |
|---|---|---|
| A社(B2B) | 商談 | 後工程データをオフラインCVとしてインポートし、CV値で重み付け |
| B社(人材) | 面談 | フォームで取得できる情報にCV値を設定し重み付け |
ここから各ケースを見ていきます。
ケースA|商談の重みに上限を設け、配信を安定させる
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| ビジネス形態 | BtoB/媒体CV:資料請求 |
| 問題意識 | 商談の価値は高い一方、CV値を重く設定しすぎると、配信が不安定になる傾向があった |
| 打ち手 | 後工程CVをオフラインCVとして媒体に返しつつ、商談の価値設定に上限を設定 |
| 判断の背景 | 商談は発生件数が少ないため、1件の増減が配信量に与える影響が大きく出やすい |
ケースAはBtoBのクライアントです。媒体CVは資料請求で、その後に「架電接触→商談→受注」という後工程が続きます。
課題は、資料請求数だけを最適化対象にすると、件数は取れても商談につながりづらいリードが増えてしまうことでした。
何をやったか
資料請求後に発生した架電接触や商談のデータを、発生後にオフラインCVとして媒体へインポートしました。そのうえで、各CVにコンバージョン値を設定しています。
コンバージョン値とは、各CVがビジネスに与える金銭的価値を数値化したものです。値を高く設定するほど、媒体はその成果が増える方向に配信を寄せやすくなります。
たとえばこのケースでは、資料請求は1万円、商談は10万円のように、後工程に進むほどコンバージョン値を高く設定しました。
| CV | コンバージョン値 |
|---|---|
| 資料請求 | ¥10,000 |
| 架電接触 | ¥40,000 |
| 商談 | ¥100,000 |
結果
オフラインCVを取り込み、コンバージョン値を設定した結果、資料請求数は減少した一方で、架電接触数と商談数は増加しました。
資料請求数の減少は、商談につながりやすいリードが増えた結果で、狙い通りの変化と捉えています。
| 実施前 | 実施後 | 変化率 | |
|---|---|---|---|
| 資料請求 | 2659件 | 1953件 | -27% |
| 架電接触 | 401件 | 499件 | +24% |
| 商談 | 153件 | 258件 | +68% |
| 商談転換率 | 5.8% | 13.2% | +7.4pt |
一方で、運用を続ける中で見えてきた課題もあります。商談のコンバージョン値を高くしすぎると、配信が不安定になりやすいことです。
商談は件数が少なく、媒体に返るまでに時間がかかります。そこに高いコンバージョン値をつけると、商談が1件返ってきたかどうかで媒体上の成果が大きく変わります。
その結果、商談の価値を高く置きすぎると自動入札の判断も振れやすくなり、配信量が安定しづらくなる傾向がありました。
そこで、その後は配信が安定するように、商談のコンバージョン値を半期ごとに見直しています。
商談は件数が少ないほど1件の増減の影響が大きくなるため、件数が減った時期には価値を下げて、その影響を抑える、といった運用です。
当初は商談1件を資料請求10件分ほどの価値に置いていましたが、件数が少ない時期には7件分ほどまで下げることもあります。
このケースから言えること
成約に近い成果ほど価値は高い一方で、発生件数が少なかったり、媒体への反映が遅れたりすると、学習が不安定になりやすい。
だからこそ、商談のような後工程のデータを学習に使うときは、価値を高く置きすぎず、媒体が安定して扱える範囲で重みを調整することが重要になります。
ケースB|媒体が予測しやすいシグナルを追加し、歩留まりを上げる
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| ビジネス形態 | 人材紹介/媒体CV:サービス登録 |
| 問題意識 | フォームで取得できる情報をもとに重みづけをしたが、歩留まり改善が見られなかった |
| 打ち手 | 媒体が予測しやすい年齢情報を追加し価値を重みづけ |
| 判断の背景 | 希望入職時期や勤務形態は、媒体が価値の高いユーザーを見分けやすいシグナルではなかった |
ケースBは、人材紹介のクライアントです。媒体CVはサービス登録で、登録した求職者に「架電接触→面談→紹介決定」という後工程が続きます。
ケースAは、後工程の実績をオフラインCVとして媒体に返し、それをもとに重み付けする方法でしたが、ケースBは別のアプローチをとりました。
人材紹介では、その求職者が面談につながりやすいかどうかが、登録フォームの回答(希望入職時期や勤務形態など)からある程度見込めます。
そこで、後工程の結果を待たず、登録の時点でフォームの情報に価値をつけて媒体へ渡すことにしました。
何をやったか
まず、サービス登録の完了時点で取れる情報をもとに、コンバージョン値を設定しました。
当初使ったのは、希望入職時期と勤務形態の回答です。フォームでの回答内容に応じてコンバージョン値を割り当て、媒体に渡して運用しました。
| コンバージョン値 | |
|---|---|
| 半年以内 × 常勤 | ¥80,000 |
| 1年以内 × 常勤 | ¥50,000 |
| 半年以内 × 非常勤等 | ¥10,000 |
| 1年以内 × 非常勤等 | ¥4,000 |
希望入職時期や勤務形態は、その後の面談に進みやすいかどうかを左右する重要な情報です。たとえば、入職時期が半年以内の人は、1年以内の人より転職意向が強く、面談につながりやすいと考えられます。
ただ、この設定では面談への転換率は2割前後のまま横ばいで、はっきりした改善は見られませんでした。
希望入職時期や勤務形態は、求職者の希望条件を示す情報です。媒体側も、検索語句や閲覧履歴などからある程度の傾向は推定できるかもしれません。
ただ、「半年以内に入職したい」「常勤で働きたい」といった具体的な希望までは、配信前のシグナルだけで安定して見分けるのは難しかった可能性があります。
そこで、媒体が推定しやすいシグナルとして、年齢をコンバージョン値に加えました。
希望入職時期・勤務形態の組み合わせに年齢を掛け合わせ、同じ条件でも年齢によって価値を変えています。たとえば「半年以内 × 常勤」の場合は次のとおりです。
| コンバージョン値 | |
|---|---|
| 半年以内 × 常勤 × 20代前半 | ¥80,000 |
| 半年以内 × 常勤 × 20代後半 | ¥65,000 |
| 半年以内 × 常勤 × 30代前半 | ¥50,000 |
| 半年以内 × 常勤 × 40代前半 | ¥25,000 |
年齢を加えたのは、媒体が配信前に扱いやすい情報だと考えたためです。
希望入職時期や勤務形態は、フォームに回答されるまで見分けづらい。一方で年齢は、ログイン情報や閲覧行動などから媒体側でも推定しやすいシグナルです。
そのため、同じフォーム回答でも年齢によって価値を変えることで、媒体が面談につながりやすいユーザーの傾向を学習しやすくなると考えました。
結果
| 年齢軸の追加前 | 年齢軸の追加後 | 変化率 | |
|---|---|---|---|
| サービス登録数 | 3532件 | 3096件 | -12% |
| 面談数 | 748件 | 921件 | +23% |
| 面談転換率 | 21% | 30% | +9pt |
年齢の軸を加えてスコアを組み直したところ、サービス登録数は減少した一方で、面談数は増加しました。
媒体が見分けやすいシグナルを加えたことで、面談につながる可能性が高いユーザーへ配信が寄ったと考えています。
このケースから言えること
成約に近い成果と相関がある情報であっても、媒体が配信時点でその違いを見分けられなければ、学習に活かしきれない。
だからこそ、フォーム回答のような事業側の評価軸だけでなく、媒体が配信判断に使いやすいシグナルと結びつけて重みを設計することが重要になります。
2社のケースから見える判断軸
| ケースA(BtoB) | ケースB(人材紹介) | |
|---|---|---|
| 成約に近いCV | 商談 | 面談 |
| 媒体に学習させる形 | 後工程の実績をオフラインCVとして後から返し、商談に高い価値を設定 | CV時点の情報に価値を設定し、サービス登録と同時に媒体に返す |
| 見えた限界 | 後工程の価値を重く設定しすぎると配信が不安定になる | 媒体が予測しづらいシグナルでは歩留まり改善につながらない |
2社に共通していたのは、事業価値の高いシグナルをそのまま渡すのではなく、媒体が安定して学習できる形に置き換えて渡したことでした。ただし、つまずいた理由は2社で違います。
ケースAでつまずいたのは、量と速度でした。
商談は件数が少ないため、価値を重く置くほど1件の有無で評価が振れ、配信が不安定になります。加えて結果が返るまでに時間がかかるぶん、振れにすぐ補正をかけにくい。
そこで重みに上限を設け、半期ごとに見直すことで、配信を安定させました。
ケースBでつまずいたのは、予測可能性でした。重みづけに使った希望入職時期や勤務形態は、媒体にとっては価値の高いユーザーを見分けづらい。
そこで媒体が見分けられる年齢を加え、面談までの歩留まりを高めました。
つまり、媒体に渡す成果やシグナルを選ぶときは、事業上の価値だけでなく、媒体が学習に使える条件がそろっているかを見る必要があります。その条件は、大きく次の3つに分けられます。
① 量(媒体が学習できるだけの件数が出るか)
② 速度(結果が学習に使えるタイミングで届くか)
③ 予測可能性(媒体が成約に近いユーザーを見分けられるか)
後工程のあるビジネスで媒体に何を学習させるか迷ったときは、まずこの3つで「その成果が媒体の学習できる形になっているか」を確かめる。
この視点を持つことで、そのままでは学習に使いづらい成果も、媒体にとって扱いやすい形に変えられるかもしれません。
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今回の内容が、媒体に何を教えるかを見直すきっかけになれば嬉しいです。広告運用研究会では、今後もこうした現場のディスカッションを共有していきます。