【広告運用研究会】指名検索広告、どこまでが増分か?3社のインクリメンタル検証結果 ── 現場の一次情報をオープンに

【広告運用研究会】指名検索広告、どこまでが増分か?3社のインクリメンタル検証結果 ── 現場の一次情報をオープンに

オーリーズでは、コンサルタントが現場の知見を持ち寄る「広告運用研究会」という取り組みをおこなっています。

今回は「指名検索広告のCVはどこまでが増分か」というテーマで、実際に検証した3社の事例をシェアします。

広告運用研究会について

オーリーズでは、コンサルタントが特定のテーマについて運用事例をディスカッションする「広告運用研究会」という取り組みをおこなっています。

AIの進化で、広告運用の知識やベストプラクティスは以前よりずっと手に入りやすくなりました。一方で、特定の状況下で誰が何を判断し、その結果どうなったかという一次情報は、なかなか表に出てきません。

この記事では、研究会で議論した内容を公開することで、現場の一次情報を比較できる場を作れればと考えています。

今回のテーマは「指名検索広告のCVはどこまでが増分か」です。実際に検証した3社の結果と、そこから見えてきた判断の分岐点を共有します。

指名検索広告の成果は「増分」で見ないと分からない

指名キャンペーンは、多くのアカウントで費用対効果が高い。CPAは一般キャンペーンの数分の一になることもあり、アカウント全体のCPAやROASを良く見せることが多いです。

今回の研究会で議論したのは、「指名検索広告のCVには、広告がなくてもオーガニックで発生していたであろうCVが含まれているのではないか」という論点でした。

指名検索広告でCVに至るユーザーは、広告が表示されなくても、自然検索でサイトを訪れ、CVに至っていた可能性がある。つまり、指名キャンペーンのCVの中には、広告がなくてもオーガニックで発生していたであろう成果が含まれている可能性がある。

では、指名検索広告が純粋に「増分」として生み出しているCVはどれだけあるのか。その増分だけで計算したCPAは、管理画面の数字とどれだけ差があるのか。

これを検証する方法のひとつに、プレポスト調査(広告を一定期間止めた上で成果の前後比較を行う方法)があります。

より確からしい方法として、地域を分割して比較する手法もありますが、地域ごとに十分な検索ボリュームが必要になるなどの理由から検証ハードルが高く、現場ではプレポスト調査を採用するケースが多い印象です。

ただし、獲得効率の良いキャンペーンを止めるのは勇気のいることです。止めて成果が落ちるリスクがある一方で、出し続けていれば管理画面の数字は維持できる。結果として多くの現場では「出しておくのが無難」と判断し、増分の検証は後回しにされがちです。

今回は、3社の検証結果をご紹介します。

ケースA|増分CPAは管理画面CPAの13倍だった

項目概要
ビジネス形態BtoC通信サービス(媒体CV:申し込み)
問題意識指名CPが全体広告費の約20%を占め、新規獲得に予算を回しづらい状態だった
検証内容指名キャンペーンを完全停止し、増分CPAを算出
判断の背景指名KWで検索するユーザーは需要が顕在化しているため、広告がなくてもオーガニック経由でCVする可能性が高いと仮説立て

このケースでは、管理画面上の指名キーワードのCPAは2,000円台と、相対的にかなり低いCPAでした。

しかし、指名キャンペーンの配信コストは全体広告費の約20%を占めており、広告予算の総額が決まっている中で、この比率のまま出し続ければ新規獲得に回せる予算がその分減る。

もし指名CPの増分が小さいのであれば、予算を新規獲得に振り替えたほうが全体の成果は上がるはずです。

指名キーワードで検索するユーザーは、サービス名を知った上で自ら行動を起こしている顕在層。自然検索でも自社サイトは最上部に表示されていたことから、「広告がなくてもオーガニックでCVするのではないか」という仮説のもと、配信を停止して検証することにしました。

検証設計と結果

検証では、指名キャンペーンを約1ヶ月間停止し、P-MAXなど他キャンペーンでも指名キーワードへの配信が出ないよう除外設定を徹底しました。

増分の算出には、広告管理画面ではなく第三者計測ツールのCV数を用いました。

広告を出していた時期の指名CV(指名オーガニック+指名広告CP経由)と、停止後のCV(指名オーガニックのみ)を比較し、その差分を「広告がなければ失われていたCV=増分CV」として算出。指名CPのコストをこの増分CVで割ることで、増分CPAを計算しています。

検証の結果、指名キャンペーンの増分CPAは26,000円と、媒体CPAの13倍。獲得効率が良いように見えていた指名検索広告が、純粋な獲得効率で見ると大きな差がありました。

指標数値
停止前CV(オーガニック+指名CP)約730件/月
停止後CV(オーガニックのみ)約690件/月
増分CV(差分)約40件
指名CPの月間平均コスト約104万円
増分CPA(Cost ÷ 増分CV)26,000円

これまで実施していた新規向け施策のCPAは、指名の増分CPA26,000円と比較しても遜色のない水準にあります。指名検索はあらゆるマーケティング施策の結果として発生する行為であり、そこに予算を投じても新たな需要は生まれません。

同じコストを新規獲得施策に振り替えれば、需要そのものを生み出す側に投資でき、事業成長につながると考えました。

加えて、今回の増分検証で指名CPのCVの大半はオーガニックでカバーできることも確認できたため、指名CPの予算を新規獲得施策にアロケーションする判断をし、停止を継続することにしました。

ただし、今回は前後比較による簡易的な検証であり、季節性や外部要因の影響を完全に排除したものではありません。オーガニック経由のCV数に大きな変化が出ていないかを定期的に確認していく方針としました。

その後の経過

その後、指名キャンペーンの停止から半年が経過した時点で、指名キーワードのオーガニック経由CV数にゆるやかな低下傾向が見られました。

要因としては、自社が広告を出していない間に検索結果上部を競合の広告が占めるようになり、オーガニックのクリック率の低下につながった可能性が考えられます。

さらにその後、事業方針として広告投資を拡大し、全体の広告予算が大幅に増加しました。指名CPのコスト自体は変わっていないものの、全体予算が増えたことで構成比は約20%から約5%に低下。当初の「指名CPに予算を取られて新規獲得に回せない」という課題は解消されました。

一方で、停止期間中に競合の指名キーワードへの入札強化が進み、オーガニックのクリック率低下が続いていたことから、構成比5%程度であれば競合対策として許容できると判断し、現在は指名キャンペーンを再開しています。

ケースB|広告を止めたら約1,100件のCVを失った

項目概要
ビジネス形態BtoC化粧品EC(媒体CV:購入)
問題意識売上が伸び悩んでいた。限られた広告予算を新規獲得に寄せるため、指名検索広告の増分を可視化したかった
検証内容指名キャンペーンを約1週間停止し、広告なしでCVがどれだけ減るかを検証
判断の背景指名検索のCVはリピーターが多く、広告がなくてもオーガニック経由で購入する可能性が高いと仮説立て

このケースでは、指名検索経由のCVにはリピーターが多く含まれており、ケースAと同様に「広告がなくてもオーガニック経由で購入に至るのではないか」という仮説がありました。

売上が伸び悩む中で、限られた広告予算を新規獲得に寄せるべきではないか。その判断材料として、まず指名キャンペーンの増分を可視化することにしました。

検証設計と結果

検証では、指名キャンペーンを約1週間停止。停止前の1週間だけで合計約4,700件のCVが発生しており、傾向を判断するにはデータの母数として十分と判断しました。

停止前後の同期間で、指名検索広告のCVをオーガニックでカバーできるかを検証しました。

停止前(1週間)停止後(1週間)
オーガニック約2,600件約3,600件
指名CP約2,100件0件
合計約4,700件約3,600件(-1,100件減少)

指名キャンペーンを止めたことでオーガニック経由のCVは約2,600件→約3,600件に増加しましたが、指名CPが獲得していた約2,100件のすべてをカバーすることはできませんでした。オーガニックでカバーできたのはそのうち約1,000件で、残りの約1,100件はカバーできませんでした

ケースAでは全体CVの約5%程度(730件中40件)の減少にとどまったのに対し、このケースでは全体CVの約23%(約4,700件中約1,100件)が減少しました。同じ「止めてみる」検証でも、ケースによって増分の大きさは異なることがわかります。

この結果を受けて、指名キャンペーンは再開。ただし、以前と同じ配信規模には戻さず、予算キャップとROASの目標値を調整した上で配信を継続する方針に切り替えました。

増分がゼロではないことが確認できた一方、すべてのCVが増分というわけでもない。「全額投資し続ける」でも「完全に止める」でもなく、予算を減額し、増分が見込めるCVだけを取りにいくという狙いです。

ケースC|CVが純増したのは繁忙期だけだった

項目概要
ビジネス形態BtoC交通系サービス(媒体CV:予約)
問題意識指名CPを新規で開始したところ月5,000件のCVが発生。しかし数ヶ月後にSEO経由の流入が減少し、広告がオーガニックのCVを奪っているのではないかという疑いが生じた
検証内容7ヶ月間の指名キャンペーンの配信データをもとに、SEO会社と共同で増分の事後検証を実施
判断の背景競合の出稿がなく自社SEOが強い環境で、広告を出す意味があるかを検証したかった

ケースA・Bとは逆のアプローチです。このケースでは、指名検索キーワードにおいて競合の出稿がなく、自社のSEOが強いため自然検索で最上部に表示されており、指名検索広告は検討されていませんでした。

裏を返せば、「広告を出せばさらにCVが上乗せできるか」を、これまで検証したことがありませんでした。そこで、新たに指名キャンペーンを立ち上げて広告を配信してみたところ、管理画面上では月5,000件規模のCVが発生。

想定以上の成果に見えたため配信を継続していましたが、数ヶ月後にSEO経由の流入が減少しました。

そこで、広告がオーガニックのCVを奪っている可能性があると考え、7ヶ月間の指名キャンペーンの配信データから、 SEO会社と共同で増分の事後検証を行うことにしました。

検証設計

指名キャンペーンは7ヶ月間配信をしていたため、「広告を出す前の月」と「出した後の月」ではシーズナリティが異なります。特に交通系サービスであったことから繁閑差が大きく、単純な前後比較では広告の効果と季節性の効果を切り分けづらい問題がありました。

そこでSEO会社と共同で、広告配信後の各月ごとに「広告がなかった場合のオーガニックCV」を推定し、同じ月の実績CVと比較する方法を採用しました。比較対象が同じ月なので、季節変動の影響を受けずに広告の純効果を測定しやすいと考えたためです。

具体的には、広告配信後の各月のオーガニックインプレッション数に広告開始前のオーガニックCTRを掛けることで「広告がなかった場合の各月のオーガニッククリック数」を推定。

実際のオーガニッククリック数との差分が「広告に奪われたクリック数」と推定しました。

これにCVRを掛けて「広告に奪われたCV数」を算出し、広告が生んだCVから差し引くことで、各月の純増減を求めました。

なお、Search Consoleと広告管理画面ではクリックの集計方法が異なるため、GA4のセッション数ベースに統一して補正しています。

結果

検証の結果、増分の有無は月によって分かれました。

期間結果
繁忙期(1月・2月)広告を出したことでCV総数が通算で約400件増えた。検索ボリュームが急増するタイミングでは、オーガニックだけでは取りきれないCVが存在し、広告による上乗せが全体にプラスに働いた
上記以外の月広告を出したことでCV総数が通算で約750件減った。広告経由のCVは発生していたが、それ以上にオーガニックからCVを奪っており、出さないほうがCV総数は多かった
7ヶ月通算差し引き約−350件。7か月通算で見れば広告はCV総数を減らしていた

ただし、推定の基準としたのは1ヶ月分のCTRであり、月ごとのCTR変動など外部要因を完全に排除できたわけではありません。

地域を分割して比較する手法などの厳密な因果推論と比べると精度に限界はあります。それでも、「繁忙期はプラス、それ以外はマイナス」という傾向が7ヶ月にわたって一貫していたことから、広告を出す意味がある時期は限られているという結論に至りました。

最終判断として、指名検索広告は繁忙期のみ配信する方針に変更。

年間を通して出し続ければ管理画面上は「成果が出ている」ように見えますが、7ヶ月通算では、指名キャンペーンに予算を配分したことでCV総数はむしろ約350件減っていました。

広告費に見合う増分があるのは繁忙期に限られると判断しました。

同じ論点でなぜ判断が分かれたのか

3つの事例を並べてみると、同じ論点でも各ケースで判断が異なっていることがわかります。

ケースA(通信)ケースB(化粧品EC)ケースC(交通)
検証方法配信停止の前後比較(増分CPAを算出)配信停止の前後比較(オーガニックCV増加を検証)配信開始後のデータで事後検証(オーガニックCVの減少を推定)
結果大半をオーガニックでカバー全体CVの約23%がオーガニックでカバーできずCVは出たがカニバリ発生
背景要因競合の入札が強い市場リピーター比率が高いがオーガニックだけではカバーしきれなかったSEOが強く競合出稿なし
最終判断停止→予算規模拡大、競合入札強化を受けて再開予算キャップとROAS目標を調整して再開繁忙期のみ配信

今回の3社を比較して見えてきた、判断に影響する主な要因は以下です。

増分の大きさ

ケースAとケースBは、どちらも「指名検索のCVはオーガニックでカバーできるはず」という仮説から出発しています。しかし結果は、ケースAでは全体CVの約5%の減少にとどまったのに対し、ケースBでは全体CVの約23%が減少しました。

同じ仮説、同じ「止めてみる」検証でも、ケースによって増分の大きさはまったく異なります。オーガニックの順位やリピーター比率といった事前情報だけでは、増分がどれだけあるかは分かりません。

検証して初めて見える数字であり、だからこそ実際に止めて、あるいは出して確かめることに意味がありました。

競合環境

自社の指名キーワードに競合が入札しているかどうかで、広告を配信する意義に違いが出ます。ケースAでは、停止後半年で競合が検索結果上部を占めるようになり、オーガニックのクリック率低下に影響したと考えています。

一方、ケースCのように競合の出稿がない市場では、オーガニックだけで十分に検索結果を占有でき、広告の守りとしての役割は小さくなります。

季節性

ケースCでは、繁忙期と閑散期で増分の有無が正反対でした。検索ボリュームが急増する繁忙期にはオーガニックだけでは取りきれないCVが発生し、広告に増分が出た。

一方、閑散期にはオーガニックだけで十分にカバーでき、広告はむしろCVを奪っていた。需要の波がある業種では、増分の有無が時期によって変わりうることを示しています。

おわりに

指名検索キャンペーンは、管理画面上では獲得効率が良く見えます。

止めて成果が落ちるリスクがある一方で、出し続けていれば管理画面上の数字は維持できる。だからこそ、「指名検索広告の純粋な獲得効果」を検証する機会が後回しにされがちです。

今回の3社の事例が示しているのは、「配信するかしないか」を一律に決めることではなく、自社の増分に基づいて「どのように配信すべきか」を判断したこと。止めるにしても出し続けるにしても、増分を把握していなければ、判断の根拠が曖昧なままです。

CPAが安いからといって、それが広告の成果とは限らない。今回の内容が、自社の指名キャンペーンを見直すきっかけになれば嬉しいです。

広告運用研究会では、今後もこうした現場のディスカッションを共有していきます。