ECの売上停滞はROAS偏重の考え方が原因?持続的な売上成長を果たすための広告運用の在り方とは

ECの売上停滞はROAS偏重の考え方が原因?持続的な売上成長を果たすための広告運用の在り方とは

ECサイトの集客でこんな運用をしていませんか?

  1. メインの広告KPIはROASである
  2. ラストタッチだけで広告を評価している
  3. 指名ワードもひっくるめて広告ROASを評価している
  4. 広告経由の新規とリピーターの割合を把握していない
  5. 売上目標はあるが顧客数の目標はない

これらに心当たりがある場合、いつかトップラインの伸び悩みに直面してしまうかもしれません。
この記事では、様々な集客手法がAIによってサポートされる時代で、売上を伸ばし続けるための集客アプローチをご紹介します。

>>「オーリーズEC支援サービス資料」をダウンロードする

売上を停滞させる5つの特徴

なぜ、上述の内容が売上を停滞させる恐れがあるのか、それぞれご説明します。

1.広告のメインのKPIはROASである

昨今のオンライン広告の多くは、AIが広告運用をサポートしてくれます。CPAやROAS等の目標値を指示すると、AIがその目標達成に向けて広告配信を最適化します。年を追うごとにこのトレンドは強まっており、各社が続々と自動化機能を展開しています。

今や不可欠な自動化機能ですが、思わぬ落とし穴もあります。それが「意図せぬリピーター偏重」です。

下記に一つの事例をご紹介します。下記は弊社クライアント(ECサイト)の検索広告キャンペーンの実績で、コンバージョンを「新規顧客によるもの」「リピート顧客によるもの」に分けて集計したものです。

※新規とリピートの区別は顧客のログインIDでおこなっているため、精度は高いです。詳細はこちらの記事をご覧ください。

ご覧いただくと、「一般ワード」を扱う広告キャンペーンのほとんどで、コンバージョンユーザーの約6割がリピート顧客であることが分かりました。キャンペーンによっては8割を超えています。一般的に、新規顧客の獲得が期待される「一般ワード」による購入の半数以上が、リピーターだったという結果は、意外と言えるのではないでしょうか。

一般的にリピーターは新規顧客と比べて自社の広告に気づきやすく、プロモーションなど短期施策にも高い反応を示します。その結果、ROASの向上を目指す自動化された広告配信は、上記例のようにリピーターに偏る恐れがあります。もちろん、これ自体が悪いわけではありません。広告がなければ購入に至らなかったリピーターもいるはずです。

しかし、意図していない過度なリピーター偏重は問題です。施策がリピーターに偏ると顧客数が伸び悩み、コスト負担の大きな集客構造になります。中長期で成長し続けるためには、売上だけでなく顧客総数の成長も不可欠です。

2.ラストタッチだけで広告を評価している

広告効果を「ラストタッチだけ」で評価することも、中長期の伸び悩みを招く要因の一つです。なぜなら「新しい顧客と接点を持つ施策」を過小評価してしまう恐れがあるためです。

例えば下図のように、ファネルの下部に位置する「リターゲティング広告」や「指名ワード検索広告」などの、いわゆる「ボトムファネル施策」は、それ以降に他の施策が接点を持つ可能性は低くなります。一方、「一般ワード検索広告」や「SNS広告」といった、いわゆる「ミドルファネル施策」は、その後にボトムファネル施策が続くことが多いため、他の施策が接点を持つ可能性が高くなります。

このような傾向から、ラストタッチだけで施策を評価することは、新しい顧客との接点を過小評価することにつながります。このリスクについては、実際のデータでも確認できましたので、本記事の「解決アプローチ」セクションでご説明します。

3.指名ワードもひっくるめて広告ROASを評価している

筆者はこれまで複数のEC事業者を支援してきましたが、多くの現場で「指名ワードも含めた広告ROASの評価」が行われています。これは運用上の利点が多く、完全に否定されるべきものではありませんが、注意を怠ると「リピーターに偏った広告運用」の原因となる恐れがあります。

下記は、弊社クライアントの実績で、オンライン広告の成果を「検索指名キャンペーン」「それ以外」で集計したものです。

指名キャンペーンは全体の費用割合が5%と少ないにもかかわらず、収益の約5割を占め、ROASも6,000%に達しています。こうした結果は指名キャンペーンではよく見られる傾向です。

このような状況で、指名キャンペーンもひっくるめて広告ROASを評価すると、その他の施策の貢献が過小評価されるリスクがあります。例えば、指名キャンペーン以外の広告施策が好調でROASが10%向上したとしても、指名キャンペーンの収益割合が大きいため、全体のROASの向上は5%にとどまってしまいます。

また、もし指名キャンペーンの効率が落ちるようなことが起これば、その他の施策の貢献が相殺され、全体として「改善なし」と見なされる恐れもあります。

このケースでは、指名キャンペーンの新規顧客率はわずか2割程度にとどまる一方、他の施策では5割以上を占めています。そのため、新規顧客を増やすには、他の施策を高く評価することが重要です。しかし、指名キャンペーンの成果がその評価を妨げてしまうことがあります。

この事例からもわかるように、指名キャンペーンを含めた広告ROASの評価では、新規顧客の獲得が軽視されるリスクがあります。

4.広告経由の新規とリピーターの割合を把握していない

上述したように、ROASをメインのKPIにして自動化機能を使って広告を運用すると、知らぬ間に「広告を届けなくても購入してくれた可能性のあるリピーターに大半の広告費を投じる」という状況に陥る恐れがあります。したがって、新規顧客とリピーターの比率を正しく把握することが重要です。

また、比率の把握は「キャンペーンレベル」で行うことをお勧めします。その理由と具体例については、本記事の「解決アプローチ」セクションでご説明します。

5.売上目標はあるが顧客数の目標はない

筆者の経験では、すべてのEC運営で「売上目標」は設定されていますが、「顧客数の目標」を設定しているケースは少ないように思います。
このことについて、書籍『顧客起点の経営 – 企業の「成長の壁」を突破する改革』では、次のような統計が紹介されています。

マーケット全体の顧客数は定義されていなくても、自社の顧客数は把握できるはずですが、実際に把握していた企業は日系で 43%程度でした。つまり残りの 57%程度、調査対象の日本企業の半分以上が、自社の売上を作っている顧客数すら可視化していないということです。仮に自社プロダクトの売上が 10 億円だとしても、その顧客数が千人なのか1万人なのかも把握しておらず、社内で共通の意識統一がされていません。

売上ではなく顧客数を使う理由は、顧客起点を徹底して、無駄な投資を避けるためです。売上は「顧客数」×「単価」×「頻度」ですが、単価と頻度を決めるのは顧客です。

つまり、単価や頻度を上げて売上を伸ばすには、結局、その顧客の心理と行動を変えるしかないのです。優良顧客は単価や頻度が高く、一過性の顧客は低くなります。つまり掛け算の結果としての売上だけを見ていては、自社プロダクトが生み出している顧客への価値が見えなくなるのです。財務諸表を追いかける経営において、顧客がブラックボックス化する理由と同じです。

約6割が「自社の顧客数を把握していない」というのは驚きです。顧客数を把握していないなら、目標とする顧客数も設定されてないと考えられます。

前述の「広告ROASだけで施策を評価すること」は、この「掛け算としての売上で大雑把に評価すること」に他なりません。その結果、広告の役割は短期的な売上や既存顧客からの売上に偏り、「顧客の理解」や「新規顧客の獲得」という持続的な成長に不可欠な課題を疎かにしてしまう恐れがあります。

以上が、売上を停滞させる特徴でした。

解決アプローチ

ここからは、売上の停滞を乗り越え、持続的な成長を実現するためのアプローチをご説明します。以下がその方法です。

  • 評価指標は(1)トータルROAS、(2)新規獲得相対CPA、(3)広告ROAS、の優先度で見る
  • ラストタッチに加えて複数のアトリビューション評価でモニタリングする
  • キャンペーンレベルで新規顧客とリピート顧客の比率を見る
  • 新規顧客目標を定める

評価指標は(1)トータルROAS、(2)新規獲得相対CPA、(3)広告ROAS、の優先度で見る

持続的な成長を目指すためには、施策を「(1)トータルROAS、(2)新規獲得の相対CPA、(3)広告ROAS」の優先順位で評価することをお勧めします。
それぞれの定義は下記のとおりです。

(1)トータルROAS

広告ROAS評価の問題点についてはこれまでご説明したとおりですが(自動化によるリピーターへの偏り、新規接点の過小評価など)、トータルROASはそれらの弊害を和らげるのに役立ちます。具体的なメリットは以下の通りです。

▶可視化されづらい広告効果も考慮できる

トータルROASで評価すると、個々の施策のROASは大きな問題ではなくなります。各プラットフォームが報告するROASの良し悪しに関わらず、投資した費用全体に対して基準値以上のリターンが得られれば問題ありません。また、指名キャンペーンのROASに振り回される心配もなくなります。

トータルROASの意義は、見えないものや曖昧なものを考慮することにあります。これは、集客における曖昧さ耐性を高める指標といえます。技術的に評価が難しい広告効果も捉えられるようになり、各広告キャンペーンのユニークな役割に集中することが可能になります。(もちろん、トータルROASが基準値内に収まっていることが前提です)

▶広告以外の成果がよければ、広告は新規顧客の獲得に専念できる

言うまでもありませんが、ECの売上は様々な理由によって上下します。例えば、下記のような複数の要因によって売り上げは変動し、トータルROASも変化します。

  • 売れ筋商品の在庫が充実し、売上が伸びた
  • SNSでの口コミやインフルエンサーの影響でオーガニックな売上が伸びた
  • 動画広告による認知向上が、時間をかけて全体の効率を押し上げた
  • サイト内検索システムを刷新してCVRが向上した

トータルROASで評価することで、広告施策は「広告以外の施策が好調であれば、その勢いを利用して、多少効率を落としてでも新規顧客の獲得を優先しよう」といった、未来志向のチャレンジができるようになります。

トータルROASにはこのような利点がありますが、これを優先するだけで自動的に新規顧客が増えるわけではありません。そこで重要になるのが「新規獲得相対CPA」の指標です。

(2)新規獲得相対CPA

新規獲得相対CPAとは「広告経由で獲得した新規顧客のCPA」です。「相対CPA」とする理由は、多くの有料施策において「新規顧客の獲得だけにかかった費用」を算出することが難しいためです。(単品リピート通販など、新規顧客に特化した広告ターゲティングやLP、カートシステムなどを用意して運用できる場合は例外)

具体的には、下図のように「施策Aに30万円をかけて、新規10件、リピーター20件、合計30件の顧客を獲得した」ケースがあったとき、「新規10件とリピーター20件を獲得するのに、それぞれにいくら費用がかったのか」は分かりません。したがって、全体の費用をもとに参考値を出すしかありません。

よって、施策の全体にかかった費用を、新規顧客とリピート顧客の件数で割ることで、参考値としての獲得単価を算出します。これは実際のCPAを表すものではありませんが、施策間の比較ができるようになります。

(3)広告ROAS

最後に広告ROASです。もちろん広告ROASも重要な指標の一つですので、他の指標と組み合わせながら活用します。

活用のポイントは、広告ROASは「評価基準」ではなく「分析起点」として利用することです。具体的には「高いROASは良い」という考え方から「低いROASは良くないかも」という発想に切り替えることが大切です。

例えば、下記のような施策A、B、Cがあり、それぞれROASと新規獲得相対CPAが下記の通りだったとします。

この場合、施策Cの評価は難しいところです。ROASは低いものの、新規顧客を効率的に獲得できています。これは、初回購入の顧客単価が低いためにROASが低くなっていると考えられます。一方で、施策Aが文句なしに優れているかというと、そうとも言い切れません。新規顧客の相対CPAが高いため、リピーターの購入がROASを引き上げていることが分かります。

これらの例からも、ROASだけでは施策の良し悪しを一概に判断できないことが分かります。よって、広告ROASだけで評価するのではなく、広告ROASを「分析の起点」として活用するのが望ましいです。そのためには、基準となるROASを設定し、その基準を下回る施策については、詳細に分析した上で投資を続けるかどうかを判断することをお勧めします。

ラストタッチに加えて複数のアトリビューション評価でモニタリングする

ラストタッチのみで広告施策を評価すると、新規顧客との接点を持つ施策が過小評価されやすいことは、すでにご説明した通りです。このリスクについて、実際のデータでも確認できましたのでご紹介いたします。

下記のデータは、弊社クライアントの広告施策を「新規顧客を獲得する可能性の高さ」に基づいて分類し、アトリビューション分析したものです。

※アトリビューション分析の基礎知識については、下記の記事をご覧ください。

いわゆる「ボトムファネル施策」は「指名ワード」や「リターゲティング」などをまとめて集計し、「ミドルファネル施策」は新規顧客へのリーチを目的とした「一般ワードでの検索広告」や「SNS広告」をまとめています。当然、「新規顧客を獲得する可能性の高さ」では、ボトムファネル施策よりもミドルファネル施策の方が優れていると考えられます。

表には3つの評価を並べており、「①ラストタッチのみの評価」「②すべての広告接点を評価したもの(均等配分)」「③(2)に加えてクロスデバイスも評価したもの」で比較しています。(クロスデバイス評価はアドエビスの機能を利用)

評価の結果、ラストタッチだけの評価でのコンバージョン数を「1」としたときに、「ボトムファネル施策」のコンバージョン数は、それぞれ②1.0倍、③1.1倍であったのに対し、「ミドルファネル施策」は②1.4倍、③2.4倍と上昇しました。

以上から、ミドルファネル施策には以下のような特徴があると考えられます。

  • 他の施策にラストタッチを奪われやすい
  • ラストタッチ以外の接点で貢献している
  • コンバージョンまでのプロセスが長くなるためクロスデバイスしやすい

この結果からも、ラストタッチ評価には「新しい顧客と接点を持つ施策」を過小評価してしまうリスクがあることを理解いただけたかと思います。

一般的に、アトリビューション分析は「コンバージョンの総数を増やす」あるいは「無駄な広告投資を減らす」ことを目的として行われることが多いですが、「新規顧客を増やす」ことを目的とするケースは少ないように思います。

新規顧客の獲得を重視するためには、複数のアトリビューションモデルで評価することをお勧めします。

キャンペーンレベルで新規顧客とリピート顧客の比率を見る

広告の意図せぬリピーター偏重を防ぐには、新規顧客とリピーターを顧客IDレベルで識別し、それを「広告キャンペーンレベル」で行うことが望ましいです。その理由は、プラットフォームによっては「新規顧客の獲得を優先したメニュー」を提供しているため、その効果を評価することができるためです。

例えば、Google広告のP-MAXには、新規顧客を優先的にターゲティングするオプションが用意されています。下記は弊社クライアントの実績ですが、通常のキャンペーンと新規顧客向けのキャンペーンを比較した場合、新規顧客率に明確な差が出ました。

また、Criteoでも新規顧客向けメニュー(Criteo Customer Acquisition)が提供されていますが、こちらもはっきりと差が出ました。

注目すべきは、「CPAがほぼ同じだが、新規獲得相対CPAには数倍の差がある」という点です。ただコンバージョン数の増加を狙う場合はどのメニューでも大差はありませんが、新規顧客の獲得を重視する場合にはこれだけ大きな違いがあります。

※P-MAXの「新規顧客の獲得」の詳細については下記の記事をご覧ください。

新規顧客目標を定める

売上目標に加えて新規顧客目標を設定することの重要性は、先述の西口氏の指摘が示す通りです。

誤解を恐れずに言えば、売上目標を追いかけることには、ある種のごまかしや、その場しのぎができてしまいます。例えば、物価が上昇すれば一時的に売上が上がる可能性は高いですし、値引きやキャンペーンを増やしたり、メルマガやリターゲティングを強化することで売上を伸ばすことも可能です。

しかし、たとえ一時的に売上が増えても、顧客総数が伸びなければ、いずれ事業成長の停滞として顕在化してきます。新規顧客数の目標を設定することは、「新しい顧客を獲得するためにはどんな工夫が必要か」について考え続ける土台をつくるという、重要な役割を持っています。

まとめ

本記事では、広告ROASに最適化された集客が意図せずリピーター偏重を招き、中長期的な成長を妨げる可能性についてご説明しました。解決アプローチとして、売上目標だけでなく具体的な新規顧客数の目標を設定し、ROASを評価基準ではなく分析の起点として活用しながら、トータルROASの範囲内で新規顧客の増加に挑戦することをご提案しました。

本記事が、EC事業の持続的な成長に少しでもお役に立てれば幸いです。

CONTACT

ECサイトのマーケティング課題、
一度オーリーズに相談してみませんか?

オーリーズは、ECサイトの広告運用を得意とする広告代理店です。

アパレル、化粧品、インテリアなど豊富なEC支援の実績・ノウハウを基に、ECサイトの集客最大化やリピーター増加、顧客単価の向上を実現します。

また、「顧客分析のためにCRMツールを導入したけれど使いこなせていない」という場合には、CRMツールの活用方法に関するアドバイスや、 見たい指標をカスタマイズしてレポーティングする体制整備のご支援など、分析のための基盤づくりもお手伝いできます。

ECサイトの売上を最大化する上で、自社だけでは限界を感じている場合はお気軽にご相談ください。

オーリーズのEC支援サービス資料をダウンロードする(無料)
オーリーズのコーポレートサイト
支援事例(クライアントの声)
オーリーズブログ

この記事を書いた人

株式会社オーリーズ

取締役副社長

足立 誠愛

在学時に現代広告の研究室に所属。実践主導の研究活動を通じて広告コミュニケーションを学ぶ。その後にワークスアプリケーションズのインターンシップに参加し、最高ランクの評価を獲得し、同社に入社。ERPパッケージ「COMPANY」導入・保守運用部門のコンサルタントを経て、アカウントマネージャーとして顧客の最終責任を担い、クライアントと組織のROI向上に邁進。2013年より株式会社オーリーズ取締役副社長に就任、事業開発を担う。

最近書いた記事