組織再社会化の学術知見を、チューター制度というカタチで実装した話
オーリーズには、「チューター制度」という仕組みがあります。
これは、「中途入社者に先輩社員が1名つき、入社から3ヶ月間、毎日30分の相談タイムを設ける」という制度です。
この制度の設計にあたっては、組織再社会化という研究分野の知見を参考にしました。今回は、学術知見と現場の制度設計をどう接続したのかを振り返ってみます。
「即戦力」という暗黙のラベルがつきがちな中途入社者について、どう組織として受け入れるべきか。そんな悩みの一助になれば幸いです。
きっかけは従業員インタビューで聞こえてきた声
オーリーズには「ウェルネスクオリティインタビュー」という、年に1回、全従業員に1時間のインタビューを行う制度があります。
当時はコロナ禍真っ只中で、リモートワークに移行して間もない状況。オフィスで気軽に話しかけることもできず、新しい環境に不安を抱えているメンバーがいました。
そのため特に社歴の浅いメンバーからは、
- 初めて一緒に仕事する人は特に話しかけるのに気を使う
- 専門分野の壁に当たると、誰に聞いたらよいか分からない
- 入社間もない時期は漠然とした不安がある
という声がありました。
共通しているのは、「困っているのに、周囲に頼ることへのハードルが高い」という点でした。オーリーズは業界未経験の入社が多く、周りに相談することはむしろ良しとしていました。
それでもこういった意見が出るということは、受け入れる組織側が問題の構造を理解し、支援の仕組みを設計する必要があるのではないかと考えました。
中途入社メンバーの不安を、どうやったら軽減できるのか?
この疑問をもとに、問題の構造を探っていきました。
組織再社会化が教えてくれたこと
この疑問の答えを探す中で、組織再社会化の考え方に出会いました。
組織再社会化とは、
前所属組織を去った個人が、新組織の一員となるために、新組織の規範・価値・行動様式を受け入れ、職務遂行に必要な技能を獲得し新組織に適応していく過程
長谷川, 2003『合併企業従業員の組織再社会化に関する研究 : 小売業における一考察』
とされています。
また、中原淳先生の書籍『経営学習論』では、中途入社者が組織参入時に直面する困難を4つの学習課題として分析しています。
- 人脈学習課題:誰が情報をもっているかわからない、誰に相談すれば物事がうまく進むかわからない
- 学習棄却課題:以前の職場で通用していた知識やスキルを手放せない
- 評価基準・役割学習課題:この職場で何を期待されているのか、何をすれば評価されるのかがわからない
- スキル課題:いまの仕事で求められる知識やスキルが不足している
そして、組織再社会化のための職場の支援について、同書籍で以下のように述べられています。
中途採用者の組織再社会化の鍵は、まず第1に「上司によるモニタリングリフレクション」であることがわかる。それは組織再社会化の要因4項目のうち3項目「評価基準・役割獲得」「学習棄却」「スキル・知識獲得」に対して正の影響を与えることがわかった。
~中略~
しかし、上司の組織再社会化支援はパワフルであるものの、どうしても上司単独では担えない部分がある。それが「人脈政治知識獲得」に対する「職場学習風土」の効果である。
これは、上司単独というよりも、職場におけるコミュニケーション、知識流通のなかで獲得されるものだと考えられ、こうした職場学習風土をいかにマネジャーが構築するか──「人脈政治知識」が獲得できる環境をいかに整備することができるのかが問われることになる。
組織再社会化の考え方にふれたことで、課題解決の糸口が見えてきました。
4つの学習課題に照らすと、わたしたちの組織課題のメインは人脈学習課題であること。そしてそれを解決するための打ち手は、上司による介入だけでなく、同僚を含む周辺環境をいかに整備するかにかかっていること。
ここから、具体的な制度設計に入っていきました。
コンセプトは「とびきり話しかけやすい人」
「人脈知識の獲得」の支援をすることを主軸におき、チューター制度を設計しました。
コロナ以前であれば、オフィスで自然とコミュニケーションが取れていました。誰かが困っていたら横にいる先輩が話しかけていましたし、ランチに行ってふとした悩みを吐露して解決できていました。
コロナ以降に減ってしまった偶発的なコミュニケーションを、制度として補完するのが狙いです。
最もこだわったのはコンセプトです。チューターと聞くと、「育成責任があるのか」「どこまで関与すべきか」「マネージャーとの線引きはどうなるのか」という疑問が生じます。
そこで、チューターのコンセプトを「とびきり話しかけやすい人」と定義しました。
- チューターにまず求めるのは、とびきり話しかけやすい人感
- 求める動きは、業務相談を受けること、他メンバーとの関係をつなぐこと
- その場で質問に答えられなくても、「マネージャーに聞いとくね!」で全然OK
このようなコンセプトを掲げることで、チューターの役割を明確にしました。
入社直後のオンボーディングで、チューター・チューティーの顔合わせを行うのですが、そこで制度の説明を行い、以下のような資料を使ってコンセプトを伝えています。

具体的なオペレーションについては、期間、定例ミーティングの頻度、交際費の仕組みなどまとめています。

現場で起きた変化
制度導入後、対象者にヒアリングを行ったところ、
- 「チューターを介していろんな人との社内交流が広がった」
- 「気軽に相談できる先輩がいるだけで安心感がある」
- 「業務面でわからなかったことを全部相談できて、もやもやが残らない」
といった声をもらいました。
年に1回の従業員インタビューでは毎回「チューター制度がありがたい」という声があり、いまではなくてはならない制度になっています。
また、オーリーズではこの制度がうまくハマりましたが、なぜうまくいったのか?他の組織でもそのまま転用できるのか?を少し考えてみました。
もちろん、課題設定や打ち手の内容もありますが、助け合いを良しとする組織風土が前提にあったのだと思います。
例えば、オーリーズの行動指針のひとつに「アセット志向」というものがあります。顧客に対する価値発揮だけでなく、仲間や組織に貢献する姿勢を推奨するバリューです。
slackでなにか質問を投げれば、誰かしら必ず返答をしてくれるような風土になっており、この組織風土が土台にあるからこそチューター制度が成立したんだろうなと振り返っています。
まだ道半ば、組織としての学習は続く
多くの中途入社者は、「即戦力」という暗黙のラベルがつきがちで、それによってまわりに支援を求めづらい構造にいるのではないかなと思います。
前の職場で成果を出してきた人ほど、「こんなことも分からないのか」と思われるのを恐れ、助けを求めることにためらいが生まれやすい。
だからこそ、受け入れる組織側がその構造を理解し、支援の仕組みを設計する必要があると考えています。
わたしたちの取り組みはまだ道半ばです。これからも理論と実践を往復しながら、組織としての学習を続けていきます。