“他者との対話”を通じて学ぶ 〜オーリーズの実践的な能力開発『ケースメソッド』〜

“他者との対話”を通じて学ぶ 〜オーリーズの実践的な能力開発『ケースメソッド』〜

オーリーズでは、活発で効率的な学習環境を整えるため、さまざまな仕組みを導入しています。

たとえば…

  • ラボ会 (毎週開催の社内勉強会)
  • 広告アカウント分析大会
  • コーチング
  • 初学者向けの「ベテランコンサルによる疑問解消部屋」 (Discordで運営)
  • どんなレベルの質問もOKな「Qチャンネル」 (Slackで運営)

などなど。

これらに加え、昨年から新しい取り組みとして「ケースメソッド」をスタートしました。

今回は、「プロジェクト・マネージャーに求められるビジネス能力を高めること」を目的として、とあるプロジェクト・マネージャーの実体験をケースに用いて実施しました。

参加者の満足度は高く、とても有意義な場となりましたので、内容をシェアしたいと思います。

実践的な学習手法「ケースメソッド」

ケースメソッドとは、現実におきた事例(ケース)に対して自分の意見を述べ、他者との対話を通して学んでいく学習手法です。 1930年代にハーバード・ビジネス・スクールで開発され、現在では実践的な教育方法の一つとして世界中の教育機関で用いられています。

ケースメソッドには、一般的な講義形式の研修と比較して、2つの点で際立った特徴があります。

第一に、用いられるケースは創作ではなく、現実に起こったことがエピソードテイストで書かれているという点です。ケースは、当事者および周辺の関係者への取材を通して作成され、作成者が作為することはありません。作為があると、受講者はそれを敏感に察知し、取り組みに対する没入感を損なってしまいます。

第二に、講師(ファシリテーター)の役割です。ケースメソッドでは、講師は自説を述べたり、理論やフレームワークを教えることはありません。受講者と講師が一緒になってさまざまな意見や考えを発言しあい、対話を構成していきます。講師の役割は、対話のきっかけを与え、舵取りをすることだけです。

参考:ケース・メソッド入門
参考:ケースメソッド教授法入門

①事前準備編

今回は、「メンバーAが、初めてプロジェクト・マネージャーを経験した事例」をケースの題材として取り扱いました。

ケース資料は、 
1部:ケース(=メンバーAが体験したエピソード)
2部:問い(=ケースに対する自分の意見)
の2部構成で書かれています。

受講者は、事前にケース資料を読み込み、問いに対する自分の意見をまとめておきます。

以下、今回用いたケース資料の一部をご紹介します。

【ケース】
1. メンバーAの状況
当時、Aはオーリーズに入社して約1年が経過しようとしていた。この1年で広告運用、資料作成、クライアントワークまで一通り経験したが、自身のキャリアについて「自信と悩み」の両方を抱えていた。将来的にプロジェクト・マネージャーとしての仕事にチャレンジしていきたいとは思いつつも、今の知識や能力からどうステップアップしていけばよいのか、漠然とした不安を覚えていた。

そんな折、上長Bとの1on1にて、新規案件においてプロジェクト・マネージャーとしてのアサインを受けた。 Aは、ネガティブ3割・ ポジティブ7割の心境であった。初のプロジェクト・マネージャーで不安はあったが、任せてくれたことが嬉しかったことと、チャレンジしたいという思いから、このアサインを受けることを決めた。

2. 支援開始
支援が始まると、予想していた通り、初めてのことばかりであった例えば以下のような業務である。

アクセス解析ツールのパラメータ設計
– パラメータの取り扱い経験はあったが、設計から入ったことはなく、どういった構造・思想で作るべきか手探りであった。さらに、本案件ではマイノリティなツールが用いられるため、どのような設計が一般的なのか、情報収集から行う必要があった。
レポート設計
– これまでの支援では、すでに運用されていたレポートを利用するばかりで、イチから設計した経験がなかった。取得できる項目・指標の整理、先方が必要とする項目の検討から始める必要があった。
検索広告のキーワード設計
– 提案時に上長がまとめた資料を思想から理解したうえで、具体的なキーワード設計に落とす必要があった。
中長期的な支援のロードマップの策定
– 目の前の配信開始だけでなく、数ヶ月~1年後を見越した中長期的な支援ロードマップの策定も求められていた。

概して、プロジェクトマネージャーとして自身が足りないと思っていたことが、まさに具現化された状態であった。

3. 運用スタート後の混乱
運用開始後直後に工数が圧迫することは、事前に想定できていた。しかし、 その条件下でチームメンバーに指示出しをすると、どうもうまくいかない。例えば、キーワードや広告文の改善案の立案を依頼すると、出てきたアウトプットが意図したものでなかったり、それを伝えようにも筋の良いフィードバック方法が分からなかったり。。お互いが腑に落ちていない状況であった。

次第に「自分でやったほうが早い。期日も見えるし…」という理由で、業務を巻き取るようになった。すると、より工数は圧迫され、より悩むことが多くなった。

「どうしてこうなってしまったんだろうか…」今後もこの壁にはぶつかるだろうから避けては通れない。 そんなことを思いながら内省をする日々であった。

【問い】
1.Aの配信準備~開始後の行動・プロセスをどう評価するか?良かった点と悪かった点を理由とともに述べよ。
2 .もし自分がAの立場だったら、どう解決・解消しようとするか述べよ。

本記事では割愛しましたが、実際のケース資料には、4,000字程度で当時の情景が詳細に書かれています。関係者も全てバイネームで記載されており、メンバーAが抱えていた悩み・もどかしさ・怒りなども生々しく表現されています。この生々しさが、受講生に没入感を与え、Aの体験を受講者全員が追体験します。

メンバーAにとってセンシティブな内容を含みましたが、本人の厚意によりすべて共有してもらい、受講者もそれに対して敬意をもって参加してもらいました。

また、受講者がより学びを得るために、以下の注意事項を共有のうえ準備をしてもらいました。

  • 内容を整理して回答するだけでは不十分。そこから「こうではないか」、「こんなこともしていたのではないか」等を想像して意見を述べること。
  • ケースメソッドでは自身の意見を表明することの価値が大きい。「定義の確認」をするよりも、「自分の意見」をまとめること。

②当日編

当日は、以下の流れで実施しました。

– 冒頭説明(進め方、注意事項等)
– グループディスカッション①:問いに対する意見共有、対話
– 全体共有
– グループディスカッション②:全体共有を聞いて感じたこと、気付いたことについての共有、対話
– ラップアップ

Zoomを使用し、スライドや資料を画面共有しながら進めました。また、グループディスカッションでは経営陣・マネージャーがファシリテーターとなり、対話が活発に促進されるようにサポートしました。

グループディスカッションでは活発に対話が行われ、

  • 相手に応じて、依頼するときの抽象度・具体度を変えればもっと上手くいくのではないか?
  • ずれたアウトプットが出てきたとき、どこで認識がずれているのかをすり合わせた方が良かったのではないか?それが目的なのか作業内容なのかによってフィードバックが変わる。
  • お客さまの支援が第一なので、現場のメンバーだけで抱える必要はなく、上長をもっと積極的に動かすことができたのではないか?

といったさまざまな観点の意見が交わされました。

受講者の感想

当会が終わった後に、各々が得た気付きや感想を、社内共有ポータルに投稿してもらいました。

プロジェクトマネージャーによって、仕事の任せ方や考え方に違いがあることを、こういう全体共有/対話の場で話せたのがとても有意義だったと思います。 チーム(人の集まり)なので最適解はそれぞれ違うのだろうけれど、あらためて聞くことで視野が広がりました!

このテーマについて役割関係なくみんなで議論すること自体が組織的にとても有意義であることを、みんなの気づきを見て感じられました。 この取り組みの意義や効果をきちんと言語化して形式知化していきたいです。

プロジェクト・マネージャー未経験ですが、躓くであろうポイントを事前に学習できる点がとても良いなと思いました。

一方で、1時間で実施したため「ディスカッションの時間が短い」「他のチームで議論した内容をもっと聞きたかった」という声も多くあがりました。

次回以降、よりディスカッションの時間を確保できる構成にしたり、各チームの議論の内容をドキュメントに残したりと、学びが共有されやすい形に改善していく予定です。

おわりに

ケースメソッドは初めての試みでしたが、学びに貪欲なメンバーが多いからか、各々の体験や意見が積極的に共有される有意義な場となりました。

引き続き、このような取り組みを継続し、業務で活かせる学びを組織全体で共有していきたいと思います。