カスタマーマッチは、既存顧客を学習させてから除外する|取引実績がある顧客のリストを、拡張配信の起点にしたケース
この記事では、ディスプレイ広告の「カスタマーマッチ」を取り上げます。
ある支援で、一般的には除外することの多い「既存顧客のリスト」に対して、配信を始めた直後だけ広告を出してみました。既存顧客から出たコンバージョンを手がかりに媒体の拡張機能を利用して配信を広げたところ、新規顧客のリードを増やすことができました。
今回は、その経緯を書いてみます。
目次
既存顧客のリストを、配信の初期だけ除外しなかった
一般的に、カスタマーマッチのリストは、
- 見込み顧客(顧客になりそうな人)を配信対象に指定する
- 既存顧客(すでに取引のある顧客)を除外する
という使い方をすることが多いと思います。
既存顧客はコンバージョンしても新規リードにはならないので、特にリピート購入が起こりにくいB2B商材では、はじめから除外して配信するのが合理的です。
しかし今回、B2B事業を行う企業の支援で、この既存顧客のリストを、「配信の初期だけ」あえて除外せずに配信しました。
ねらいは、媒体の「オーディエンス拡張機能」を活かすことでした。
既存顧客のコンバージョンを、拡張機能の手がかりにした
拡張機能は、コンバージョンにつながりやすいユーザーを媒体が探して、配信先を広げる機能です。Google 広告の「最適化されたターゲティング」、Yahoo!広告の「スマートターゲティング」、Microsoft 広告の「予測ターゲティング」などがこれにあたります。
媒体がユーザーを探すときの手がかりになるのが、リストの内容や、配信の初期に出たコンバージョンです。初期にどんなユーザーからコンバージョンが出るかで、拡張後の配信先は変わります。
今回は、この初期のコンバージョンに注目しました。自社の顧客にいちばん近いのは、すでに取引のある既存顧客です。配信の初期に既存顧客からコンバージョンが出れば、拡張後の配信先も、自社の顧客に近いユーザーに寄っていくと考えました。
ただ、そのためには既存顧客からコンバージョンが出る必要があります。リピート購入が起こりにくいB2B商材でも、既存顧客が広告にまったく反応しないわけではありません。
B2Bでは、サービス資料やホワイトペーパーのダウンロード、セミナーの申し込みなど、コンバージョン地点が複数あることが少なくありません。すでに取引のある顧客でも、別の課題を抱えたユーザーや、別の製品に関心を持ったユーザーが、別の地点で再びコンバージョンすることがあります。
この考え方で、2つの取り組みを行いました。取り組みAでは、既存顧客のリストで配信を始めた前後の成果を比べました。取り組みBでは、見込み顧客のリストで始めていた配信を既存顧客のリストに切り替え、2つのリストの成果を比べました。
※ちなみに、リストから配信を広げる方法には、類似オーディエンス(リストに似た行動のユーザーへ広げる機能)もあります。この支援でも過去に使いましたが、リードの獲得効率がリターゲティングに及ばなかったので、今回はコンバージョンも手がかりにできる拡張機能を選びました。
取り組みA|既存顧客のリストを加えたら、費用はほぼそのままで新規リードが約3割増えた
| 項目 | 概要 |
|---|---|
| ビジネス形態 | B2B/コンバージョン地点:資料ダウンロード |
| 問題意識 | ・リターゲティングだけでは、リードを増やしにくくなっていた ・新規獲得向けの配信を試しても、獲得効率がリターゲティングに及ばなかった |
| 打ち手 | ・リターゲティングとは別のキャンペーンで、カスタマーマッチ×拡張機能を追加 ・配信先は既存顧客のリストのみ ・配信初期は既存顧客を除外せず配信し、コンバージョンが蓄積した段階で拡張した |
| 判断の背景 | 既存顧客のコンバージョンを、拡張の手がかりにしたかった |
何をやったか
1つ目は、ディスプレイ広告でリターゲティングのみを配信していたケースです。新規獲得向けの配信もいくつか試しましたが、リードや商談の獲得効率は、いずれもリターゲティングに及びませんでした。
今回は、リターゲティングとは別のキャンペーンで、カスタマーマッチの配信を追加しました。流れは次のとおりです。
- 既存顧客のリスト(1,000件程度)のみを配信先にして配信を始める
- コンバージョンが15件程度たまったら、拡張機能で配信を広げる
- リスト外のユーザーへ配信が広がったら、既存顧客を除外する
※リストの約1,000件という数は、取引先の社数ではありません。取引先の複数の担当者など、自社で保有しているメールアドレスを加えた件数です。
結果
リターゲティングとカスタマーマッチの2つのキャンペーンを合わせた開始前後の実績は次のとおりです。
| 指標 | 開始前 | 開始後 | 変化 |
|---|---|---|---|
| 費用 | 43万円 | 44万円 | ほぼ横ばい |
| 新規顧客のリード | 125件 | 165件 | 約3割増 |
| リード単価 | 3,500円 | 2,700円 | 約2割低下 |
費用はほぼ変わらないまま、新規顧客のリードは約3割増加しました。リード単価も、約2割低下しています。
開始後のカスタマーマッチの実績を、リターゲティングと比べてみました。
| 指標 | カスタマーマッチ | リターゲティング (拡張機能なし) |
|---|---|---|
| 費用 | 約48万円 | 約81万円 |
| リード | 約200件 | 約300件 |
| リード単価 | 約2,400円 | 約2,700円 |
| 商談の件数 | 約15件 | 約9件 |
| 商談の獲得単価 | 約3.2万円 | 約9.0万円 |
リードの件数はリターゲティングの方が多かったものの、リード単価はカスタマーマッチの方が約1割低く、商談の件数も上回りました。商談の獲得単価は、リターゲティングの約3分の1です。
なお、商談件数は十数件規模のため、傾向として捉えています。
このケースから言えること
既存顧客のコンバージョンを手がかりに拡張したことで、商談につながりやすいユーザーへ配信が広がったと見ています。
これまで試した新規獲得向けの配信は、獲得効率でリターゲティングに及びませんでしたが、既存顧客のリストを起点にすることで、効率よく新規に届けられる可能性が見えました。ただし、取り組みAでは既存顧客以外のリストと比べていません。その比較は、次の取り組みBで見ていきます。
取り組みB|見込み顧客のリストから既存顧客のリストに切り替えたら、リード単価が約4割下がった
| 項目 | 概要 |
|---|---|
| ビジネス形態 | B2B/コンバージョン地点:資料ダウンロード |
| 問題意識 | 業界・業種で選んだ見込み顧客のリストでカスタマーマッチを始めたが、成果が振るわなかった |
| 打ち手 | 配信先を見込み顧客から既存顧客のリストに切り替えて配信 |
| 判断の背景 | 仮説で選んだ見込み顧客よりも、既存顧客のコンバージョンの方が拡張機能の手がかりとして確かだと考えた |
何をやったか
はじめは、広告を届けたい業界・業種で選んだ見込み顧客のリストで配信しました。コンバージョンが出始めたところで、拡張機能を使って配信先を広げています。この間、既存顧客は除外していました。しかし、成果は振るいませんでした。
そこで、取り組みAと同じ手順で、既存顧客のリストに切り替えました。過去数年分の取引実績から約1,000件の既存顧客リストを用意し、まずは既存顧客に配信して、コンバージョンが一定数たまってから拡張機能で配信先を広げました。
結果
切り替えの前後で、2つのリストの実績を比べると、次のとおりです。
| 指標 | 見込み顧客のリスト | 既存顧客のリスト |
|---|---|---|
| 費用 | 約21万円 | 約20万円 |
| リード | 55件 | 86件 |
| リード単価 | 約3,700円 | 約2,300円 |
費用はほぼ同じで、リードは約1.5倍に増加しました。リード単価は、約4割下がっています。
ただし、切り替えの前後の比較のため、時期や他の要因の影響は排除できていません。また、リードは数十件規模のため、傾向として捉えています。
このケースから言えること
切り替えの前後で、配信の設定として変えたのは、配信先のリストだけです。見込み顧客のリストへの配信でも、初期のコンバージョンは出ていました。
見込み顧客のリストは、「この業界・業種なら売れるはずだ」という仮説で選んだものです。同じ業界・業種の中にも商談にならないユーザーは含まれるため、コンバージョンが出ても、取引につながるユーザーからとは限りません。そのコンバージョンを手がかりにすると、拡張先が意図した方向から外れることもあります。
一方、既存顧客はすでに取引のある顧客です。そのコンバージョンを手がかりにした方が、拡張先は自社の顧客に近いユーザーに寄りやすかったと考えています。
既存顧客のリストを、新規獲得の起点にできる場合がある
2つの取り組みに共通していたのは、既存顧客からコンバージョンが出た状態で、オーディエンスを拡張したことでした。どちらも、費用を増やさずに新規リードの獲得効率が上がっています。
| 取り組みA | 取り組みB | |
|---|---|---|
| 変更前 | リターゲティングのみで配信 | 見込み顧客のリストで配信し、拡張 |
| 変更後 | リターゲティングとは別に、既存顧客のリストで配信し、拡張 | 既存顧客のリストで配信し、拡張 |
| 結果 | 費用はほぼ横ばいで、新規リードが約3割増加 | 費用はほぼ同じで、リード単価が約4割低下 |
既存顧客から出たコンバージョンをもとに拡張したことで、配信先が自社の顧客に近いユーザーへ寄り、新規リードの獲得効率が上がったと見ています。
ただし、この方法を試すには、既存顧客からもコンバージョンが見込めることが重要です。リピートが起きにくく、コンバージョン地点も1つしかない商材では、既存顧客に配信してもコンバージョンはあまり出ません。拡張のためのシグナルが集まらないまま、既存顧客への広告費だけがかかる可能性があります。
なお、今回の比較で確かめられたのは、「既存顧客のリストで配信を始めて拡張したら、新規リードの獲得効率が上がった」ことまでです。拡張機能は主にリストの内容と初期のコンバージョンを参考にするため、どちらが成果につながったのかは切り分けられていません。どちらの取り組みも前後の比較で、件数も多くないため、結果は傾向として捉えています。
それでも、2つの取り組みの結果から、新規獲得では除外されることの多い既存顧客のリストも、配信を広げる起点になることがあると考えています。
今回の事例が、カスタマーマッチの使い方を考える際の新たな視点になれば幸いです。