ROASは良いのに利益が残らない ── 多品目ECで広告配信を粗利基準に寄せた設計
ECの広告運用では、目標ROASを決めて媒体の自動入札に任せる運用が定番です。
ROAS(広告費用対効果)は「かけた広告費に対してどれだけ売上が立ったか」の指標。つまり媒体は、売上を最大化する方向に配信を寄せていきます。
ただ、媒体が見ているのはあくまで売上であり、利益ではありません。
商品ごとの粗利は、媒体には見えていない。だから、「売れやすいが粗利率が低い商品」に配信が寄ることが起こり得ます。よく売れるからといって、利益が取れているとは限りません。
分かりやすい例が、小売ECにおけるプライベートブランド(自社開発商品。以下PB)とナショナルブランド(メーカー仕入れ商品。以下NB)です。
PBは粗利率が高い一方、知名度や売れやすさでNBに劣ることがある。NBは広く知られていて売れやすい一方、仕入れ商品のため粗利率は低い。
売上基準の最適化に任せると、配信は「売れやすいNB」に寄り、ROASは好調なのに利益が残らない、という状態が起こり得ます。
今回は、ある多品目ECで、Googleショッピング広告を「売上基準」から「粗利基準」に近づけるために行ったキャンペーン設計について紹介します。
目次
商品ごとの粗利を媒体に渡すのは、現実には難しい
粗利基準で最適化するためのシンプルな方法は、コンバージョン値を売上ではなく粗利にすることです。
たとえば同じ1万円の商品でも、粗利が4,000円の商品と1,000円の商品では残る利益が違います。粗利を媒体に渡せれば、この差を自動入札に反映できます。
ただ、今回のケースではそれが難しい状況でした。
取り扱いSKUは数万点以上。仕入れ価格は変動し、セールによって販売価格も変わります。商品ごとの粗利を正しく算出し、データフィードへ反映し続けるのは現実的ではありませんでした。
そこで、粗利が近い商品を商品フィード上で分類し、その分類(=商品群)ごとにキャンペーンを分ける方針を取りました。
商品単位ではなく、粗利率が近い商品群でまとめる
まず行ったのは、粗利率が近い商品を同じ商品群にまとめることです。
粗利率が大きく異なる商品を同じキャンペーンに入れると、媒体はその中で売れやすい商品に配信を寄せます。もし売れた商品が粗利率の低い商品であれば、ROASは良く見えても利益は残りにくくなります。
一方で、粗利率が近い商品を同じ商品群にまとめておけば、どの商品が売れても粗利率のブレは小さくなります。
今回のケースでは、粗利率を分ける軸としてPBとNBを使いました。PBとNBで粗利率に明確な差があり、商品フィード上でも分類しやすかったためです。
そのため、まずPBとNBを分け、粗利率が近い商品群ごとに配信を調整できるようにしました。
価格帯も分け、配信機会の偏りを避ける
さらに、粗利率だけでなく、価格帯の観点も重要です。
同じ粗利率の商品でも、価格帯が違うと配信は低価格帯に偏りやすいからです。低価格帯はCVが取れやすく、媒体の学習も早く進みます。一方、高価格帯はCVが取れにくく、学習が進みにくい。
両方を同じキャンペーンに入れると、媒体は学習が進みやすい低価格帯に配信を寄せていきます。その状態が続くと、高価格帯の商品に配信機会が回りにくくなります。
そこで、粗利率に加えて価格帯でも商品群を分けました。
学習が安定する5つの商品群に分けた
粗利率と価格帯の2軸を踏まえ、今回はキャンペーンを5つに分けました。
商品群を細かく分けすぎると、キャンペーンごとのCV数が不足し、媒体の学習が不安定になります。そのため、学習に必要なCV数を確保できる粒度に留めました。
低価格帯と中価格帯はCV数を確保しやすかったため、それぞれPBとNBで分けました。一方、高価格帯はCV数が少なく、PBとNBに分けると学習が不安定になる懸念がありました。そこで高価格帯はあえて統合し、CV数の確保を優先しました。
| 商品群 | 運用方針 |
|---|---|
| 低価格帯 × PB | 採算が合う範囲で、配信機会を残す |
| 低価格帯 × NB | 目標ROASを高めに設定し、費用が寄りすぎないよう抑える |
| 中価格帯 × PB | 獲得効率を見ながら、余地があれば投資を強める |
| 中価格帯 × NB | ROASだけで判断せず、費用が偏らないよう配分する |
| 高価格帯 | 配信量とCV数を確保し、学習を安定させる |
この構成をもとに、キャンペーンごとに目標ROASを出し分け、予算を配分しました。高粗利のPB商品群は投資を強め、低粗利のNB商品群は配信が寄りすぎないよう目標ROASや予算を見直す。
このように、商品単位ではなく商品群単位で、配信の偏りを調整できるようにしました。
ROASを崩さず、配信を調整しやすくなった
一般には、キャンペーンは統合したほうが学習が安定するとされます。今回はそれと逆に、商品群ごとに分ける設計を取りました。
今回は、学習量を担保できる粒度で設計したため、ショッピング広告全体のROASが悪化することはありませんでした。
そのうえで、PB / NBや価格帯ごとに配信の寄せ方を調整でき、どの商品群を伸ばすかを事業側の判断で決められるようになりました。
結果として、この設計は3年以上にわたって実用的な運用として続いています。
どの商品群に配信を寄せるかを、媒体任せにしない
今回の取り組みのポイントは次の3つです。
- ショッピング広告は売上基準で最適化されるため、ROASは良く見えても、粗利率の低い商品群に配信が寄ることがある
- 粗利額を媒体に渡せない場合でも、粗利率と価格帯を掛け合わせれば、粗利基準に近い投資判断の単位を作ることはできる
- ただし、商品群を細かく分けすぎると学習量が不足するため、事業上の管理粒度と媒体上の学習粒度のバランスを取る必要がある
ROASが良くてもどの商品が売れてるかによって事業への貢献度は変わります。
どの商品群に配信を寄せるかを、事業側の判断に応じてコントロールできる状態にしておくことが、多品目ECにおけるショッピング広告の運用では重要だと感じています。