エントリーは増えているのに売上が伸び悩む ── 人材紹介の広告を「疑似ROAS」で評価し直した話

エントリーは増えているのに売上が伸び悩む ── 人材紹介の広告を「疑似ROAS」で評価し直した話

専門職種を扱う人材紹介ビジネスの広告運用の話です。

エントリー数は順調に伸びている。エントリーCPAも目標内。広告の数字だけ見れば調子は良いように見える。ただ、事業の売上がついてきませんでした。

この問題を解決するためにたどり着いた「疑似ROAS」という評価方法についてシェアします。

広告は順調なのに、売り上げが伸び悩む

広告の成果は順調に改善していました。エントリー数は伸び、CPAも目標内。このまま売上もついてくるだろうと思っていました。

しかし、クライアントとやりとりする中で、事業の売上は思うように伸びておらず、その背景に2つの問題があることが分かりました。

1つ目は、架電の現場が回らなくなっていたこと。

エントリーが増えた分だけ、キャリアアドバイザーの架電件数も膨らんでいきました。しかし電話しても繋がらない。

繋がっても「今すぐ転職を考えているわけではない」「希望条件が紹介可能な求人と大きくずれている」と面談につながらないケースが増えていました。

架電リスト数が増えたことと、そのなかでリストの質が下がったことで負荷が余計にかかり、本来手厚く対応すべきリストも後回しになってしまう、という悪循環が起きていました。

2つ目は、成約しても売上が小さいケースが目立ち始めたこと。

たとえば看護師の人材紹介では、同じ「1件の成約」でも、求職者の属性によって紹介手数料が大きく変わります。

夜勤対応可能なフルタイムの正看護師と、日勤のみのパート希望の求職者とでは、成約時の売上に数倍の差が出ることがあります。

このクライアントでは、CPA最適でエントリーを広く集めた結果、低単価の求職者の割合が増えていました。成約件数は維持できていても、1件あたりの売上が目減りしていく。

この2つが重なって、「広告は順調なのに売上が伸び悩む」という状態が生まれていました。エントリーCPAという指標上は問題ない。でも、事業のROIで見ると悪化していました。

広告の成果と事業の成果がずれる理由

人材紹介サービスは、おおまかに以下の流れをたどります。

  1. サービス登録・エントリー
  2. 架電(CAからの電話連絡)
  3. 面談
  4. 求人紹介
  5. 成約(入職)

収益が生まれるのは最後の「成約」段階であり、エントリーはあくまでファネルの入口です。

一般的に、ファネルの入口を広げるほど後工程の歩留まりは悪化しやすい。エントリー数をKPIに置く運用では、媒体の機械学習はあくまで「応募しやすいユーザー」に向けて最適化される。

成約に至るかどうかは考慮されないため、結果として転職意欲が低い層や条件がマッチしにくい層の流入比率が高まる可能性があります。

さらに、人材紹介では成約時の紹介手数料が求職者の属性によって変動します。どんな求職者を集めるかが、歩留まりだけでなく収益性にも直結します。

つまり、エントリーCPAを最適化するだけでは、歩留まりの高い、かつ高単価の成約につながるエントリーを増やすことにはならない。今回のケースでも、まさにこの構造が顕在化していました。

では、広告運用をどう変えればいいのか。この問題に向き合うにあたって、まず必要だったのは「何を基準にすれば、広告の事業貢献を正しく評価できるのか」を考えることでした。

既存のKPIでは、広告の事業貢献を評価しづらい

エントリーCPAをKPIに置けば、エントリーの獲得効率は評価できる。でもその先の転換率や収益性は見えない。

面談CPAをKPIにすると、エントリーから面談までのリードタイムが長く、施策を打ってから評価までに時間がかかりすぎて、運用のPDCAが回しづらい。

どちらのKPIも、広告が「事業にとって本当に価値のあるエントリーを獲得できているか」を捉えきれない可能性がありました。

この板挟みの中で辿り着いたのが、「疑似ROAS」という評価方法です。

「疑似ROAS」という評価方法

疑似ROASとは、エントリー時点で取得できる求職者の属性情報をもとに「この属性の求職者がどの程度のビジネス価値を持つか」を疑似的にスコア化し、広告施策の評価や予算配分の判断基準として使う仕組みです。

ECにおけるROASが「広告費に対してどれだけ売上を生んだか」を測るように、疑似ROASでは「広告費に対してどれだけビジネス価値の高いエントリーを獲得できたか」を測ります。

実際の売上データがあるわけではないので「疑似」と呼んでいますが、考え方としてはvalue-based bidding(価値ベースの入札)の発想を評価の仕組みに転用したものです。

外部サイト目標広告費用対効果に基づく入札について - Google 広告 ヘルプsupport.google.com

なお、媒体に学習データとして読み込ませるCV値の運用は別途すでに導入していました。疑似ROASはあくまで施策評価予算配分に使うもので、両者は目的が異なります。

疑似ROASのスコア設計

エントリー時に入力される求職者の属性情報(年齢・希望雇用形態・入職希望時期・保有資格など)をもとに、過去の成約実績や各ステップの転換率を照らし合わせながら、属性の組み合わせごとにスコアを設定しました。

各属性のスコアは掛け合わせて最終的なスコアとしています。

以下は、考え方を示すための架空のスコア例です。実際のスコアは案件ごとの実績データに基づいて設計します。

年齢層スコア

年齢層スコア考え方
26〜30歳50採用ニーズが最も高く、転換率・報酬ともに高い
21〜25歳 / 31〜35歳35採用ニーズが高い層
36〜55歳30経験値は高いが、求人とのマッチングに幅がある
56歳以上10求人の選択肢が限定される傾向

雇用形態スコア

雇用形態スコア考え方
常勤(夜勤あり)40紹介報酬が最も高くなるケースが多い
常勤(日勤のみ)30安定した需要がある
非常勤・パート10報酬単価が低い傾向

希望入職時期スコア

入職時期スコア考え方
半年以内45転職意欲が高く、成約までのリードタイムが短い
1〜3ヶ月以内40意欲は高いが、急ぎすぎるとマッチング精度が課題になることも
1年以内30中期的な検討層
1年以上 / 未定5成約確度が低い

保有資格スコア

資格スコア考え方
正看護師35求人の幅が広く、報酬も高い
准看護師30一定の需要がある
その他資格25資格の種類による
資格なし5対応可能な求人が限定される

このスコアで計算すると、たとえば「28歳・常勤夜勤あり・半年以内希望・正看護師」のスコアは「50 × 40 × 45 × 35 = 3,150,000」となります。

一方、「未定の入職時期・資格なし」であれば数十〜数百程度のスコアになる。この差が、「どの媒体・どのキャンペーンがビジネス価値の高いエントリーを獲得できているか」を判断するための物差しになります。

導入後の変化

この評価方法を導入したことで、「どこに予算を寄せるべきか」「どのキャンペーンが事業に貢献しているか」が可視化されました。

また、疑似ROASのスコアリングをそのままCV値として媒体に学習させるとロジックが複雑なため学習がうまく回らない可能性がありました。

そこで、媒体運用に関しては同じ考え方をベースに重みづけを簡易化したCV値で媒体最適化に活用。

疑似ROASによる事業貢献性の評価とCV値による媒体最適化をベースに運用改善を続けた結果、エントリー後の転換率は改善し、リソース逼迫も徐々に緩和されていきました。

広告の成果をどこに置くか

人材紹介に限らず、「CVを増やすこと」「事業成果を最大化すること」が必ずしも一致しないビジネスは多いと思います。BtoB領域でのリード獲得や、フリーミアム型サービスのトライアル獲得なども、似た構造を持っています。

今回は「エントリーCPA」ではなく「人材ビジネスにおいて広告が貢献すべき成果は何か」を起点にKPIを組み直しました。そのためには事業構造の理解が必要で、広告の管理画面の数字だけでは判断できない領域でした。

運用型広告の自動化が進むほど、「何をコンバージョンとするか」「そのコンバージョンにどんな価値を持たせるか」という設計部分は、運用者の大事な役割になっていくと思っています。

疑似ROAS運用は、その中で生まれた一つの工夫でした。

Written by

人材業界 広告支援チーム
株式会社オーリーズ