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運用型広告で「決裁者」をターゲットに成果を出すのが難しい理由
BtoBのマーケティングでは、決裁者へのアプローチが重要です。
あるBtoB SaaSの広告で、決裁者に向けた広告コミュニケーションを試してみました。比較的低〜中単価の、担当者でもトライアル導入を検討できるタイプのサービスです。
運用を重ねる中で、大事な気づきがありました。
目次
「担当者向け」と「決裁者向け」の広告を出してみた
2種類のクリエイティブを並行で配信しました。ざっくりとこんなイメージです。
▼担当者向け
「この業務がラクになります」
毎日手を動かす人の、具体的な痛みに寄せた訴求です。
▼決裁者向け
「組織の課題を解決します」
意思決定者の関心に合わせて、抽象度を上げた訴求です。
広告表現だけでなく、ターゲティングもそれぞれに合わせて設計しました。類似オーディエンスや役職セグメントなど、使える手は一通り試しています。
運用の問題だけでは説明できない差
数週間の配信結果から、成果ははっきりと分かれました。
担当者向けは安定した成果が得られた一方で、決裁者向けはコンバージョンがほぼ取れませんでした。
運用の改善余地はあったかもしれません。ただ、訴求・ターゲティング・メディアを複数パターン検証しても、担当者向けとの差は縮まらなかった。
お客様と議論を重ねる中で、運用の巧拙とは別の構造的な問題があるのではないか、という話になりました。
決裁者とダイレクトレスポンスの相性の悪さ
運用型広告と「決裁者」の間には、いくつかの相性の悪さがありました。
対象人数がそもそも違う
決裁者の人数は、一つの会社でそこまで多くはありません。担当者は、その何十倍もいます。
具体的にイメージしてみます。たとえば、ターゲット企業が1,000社あるとします。1社あたりの役員・部長職が5〜10人だとすると、全体で5,000〜1万人。
一方、担当者クラスはその10倍以上いることも珍しくありません。母数の時点で、すでに大きな差があります。
さらに重要なのは、その中で「今すぐ買いたい人」がどれだけいるかです。LinkedIn B2B Instituteが提唱する「95-5ルール」によると、BtoBの潜在顧客のうち、今すぐ購買を検討している層(in-market)はわずか5%程度。
残り95%は「いつかは買うかもしれないが、今ではない」層(out-of-market)だとされています。
決裁者1万人の5%は500人。担当者10万人の5%は5,000人。広告で成果を出すには、この絶対数が効いてきます。
広告でダイレクトレスポンスを狙うには、反応が生まれ、データが溜まり、学習が進むだけの母数が必要です。流石に500人では、この好循環を回すのが難しい。
課題の抽象度が違う
決裁者が抱える課題は、抽象的なことが多い傾向があります。「組織の生産性を上げたい」「DX、AI活用を推進したい」。こうした課題は、解決策が一つに定まりません。
運用型のダイレクトレスポンス広告は、数十秒の動画、数行のバナーコピーで勝負するメディアです。抽象的な課題に対して、その短いメッセージで「これだ」と思わせるのは、なかなか難しい。
一方、担当者の課題は具体的なことが多いです。「この集計作業が毎月面倒」「このレポート作成に3時間かかっている」。痛みがはっきりしています。
だから「この作業がラクになります」というメッセージが刺さりやすい傾向があります。
一人では決めない
BtoBの購買は、決裁者一人の意思で直線的に進むことは珍しいです。
調査会社Gartnerによると、BtoBの購買グループは5〜16人、最大4つの機能にまたがるほど多様化しています。さらに、74%の購買チームで「不健全な対立」が起きるとも指摘されています。
つまり、決裁者本人が広告を見て興味を持っても、その場でフォーム送信まで一直線にはなりにくい。社内の他のメンバーとの合意形成が必要になります。
一方、担当者は自分が担当する実務課題を起点に動くことができます。「こういうツールがある」と社内に持ち込む「最初の一手」になりやすい。
実際、私たちの経験でも、担当者向けクリエイティブから発生した商談の多くは、担当者が社内で紹介してくれたことがきっかけでした。
広告の役割を「決裁者を直接動かす」ではなく「社内に持ち込む起点を作る」と捉え直すと、担当者向けの方が理にかなっているとも言えます。
「量」を前提に広告を設計する
今回の結果を振り返って、改めて感じたことがあります。
広告で短期的な成果を上げる、いわゆるダイレクトレスポンスにおいては、やっぱり「量」が大事だということです。
配信できる母数が多ければ、反応が生まれ、データが溜まり、学習が進み、最適化がかかる。この好循環が回るかどうかが、広告の成否を分けます。
改めて考えてみると当たり前のことなのですが、今回の経験はそれを痛感させられました。
広告は「担当者起点」で好循環を回す
運用型広告でダイレクトレスポンスを狙うなら、ターゲットの数が多い担当者を起点にするのが現実的だと思います。
その先で決裁者に届くかどうかは、広告だけでなく、プロダクトの価値やセールスの力、導入後の成功事例など、別の要素が担います。広告は「入口を作る」ことに集中する。
この役割分担を意識することが大事だと感じました。
決裁者へのアプローチは「広告の役割」を変える
それでも決裁者に広告で届けたい場合は、役割の定義を変える必要があると思います。
広告の短い接点でフォーム送信などのアクションを求めるのではなく、たとえばイベントやセミナーへの誘導、あるいはコンテンツの紹介など、「次の接点につなげる」ことをゴールにする。
広告単体で完結させようとせず、他のタッチポイントと組み合わせてアプローチするイメージです。
あるいは、広告を認知に振り切るという考え方もあります。今すぐの反応を求めず、「将来検討するときに思い出してもらう」ための接触回数を積む。
母数が少ない決裁者に対しては、こうした中長期視点のほうが相性が良いかもしれません。
今回の話は一つの事例から得た示唆であり、すべてのBtoB商材に当てはまるとは限りません。商材特性、単価、ターゲット企業の規模や文化によって、最適解は変わります。
ただ、「決裁者は担当者より母数が少ない」という構造は変わりません。そして運用型広告は、母数がないと好循環が回らないメディア。
この二つを掛け合わせたとき、「広告で決裁者をダイレクトレスポンスで狙う」という戦略には、構造的な難しさがある。それが今回の気づきでした。
この記事を書いた人
株式会社オーリーズ
広告支援チーム
BtoB広告支援チーム