広告運用における機械学習との向き合い方

広告運用における機械学習との向き合い方

自動入札をはじめ、昨今の広告運用では機械学習の活用は欠かせません。
一方で、具体的なアルゴリズムはブラックボックスなので、「なぜCPAが上がったのか」などの分析がしづらく頭を悩ませている人も多いと思います。機械学習は仕組みさえ押さえれば、挙動の要因や傾向をつかむことができるため、分析の精度が上がり、効果的な打ち手につなげることが期待できます。
そこで今回は、広告運用における機械学習の仕組みや、広告運用の際の注意点について解説していきます。

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広告運用における「機械学習」とは

運用型広告においては、さまざまなデータを基にどのような属性の人がコンバージョン(CV)しやすいのかを機械学習が学習して広告の配信が行われています。中でも主に「自動入札」「配信広告の決定」を行う際に機械学習が利用されています。

1.自動入札

自動入札とは、Google広告やYahoo!広告などで導入されている入札機能のひとつで、広告を閲覧するユーザーの地域や時間帯、過去の検索履歴など、ユーザーを特定できる属性情報(シグナル)を考慮して自動で入札単価の調整が行われる機能です。
自動入札が導入される以前は運用者が手動で入札単価を調整していましたが、自動入札の導入によって、機械学習が設定した目標(例えば、目標CPAやコンバージョン数など)に対して予算内で最大限近づくよう自動的に入札の強弱が付けられるようになりました。

2.配信広告の決定

広告グループ内に複数の広告がある場合、広告を閲覧するユーザーのシグナルを考慮して、より成果につながる可能性が高い広告を優先的に配信する機能です。Google広告の場合は「広告のローテーション」機能を有効にした場合に利用ができます。

また、自動入札や配信する広告を決定する以外でも、ショッピング広告に掲載する商品を決める場合や、アドフラウド(不正クリック)を判断する際にも機械学習の技術は利用されています。

機械学習がうまく働いているケース・うまく働かないケース

広告運用における機械学習の基本的な動きは、過去の広告配信データからCVにつながる傾向を学習し「より見込みのあるターゲットユーザー」に対して広告配信するといった挙動です。

💡 ここで説明している機械学習の挙動については過去の運用経験から推論できる内容をまとめたものであること、実際の機械学習の細かい挙動については入札戦略の設定によっても変動がある点をご注意ください。

機会学習がうまく働いているケース

以下のイメージ図をご覧ください。
たとえば機械学習が、過去にCVした「A」のユーザーが一定の共通属性を持っていると判断した場合、同じような傾向を持つ「B」や「C」に属するユーザー群もCVの可能性が高いと判断し、「B」→「C」と広告配信する領域を広げていきます。
過去の成功事象から共通する要素を抽出し、そこから推論してさらなる成功事象を生み出していくという流れは人間が学習するプロセスと似ていますね。

機会学習がうまく働いていないケース

では、機械学習がうまくはたらいていない場合はどのような挙動をするのでしょうか。
例えば以下のイメージ図のように、機械学習が「A」のユーザー群と類似の属性を持つユーザー群である「B」や「C」にターゲットを広げて広告配信していった結果、CVにつながっていないというケースです。
機械学習も万能ではないため、このように最初の読みが外れて成果につながらないケースがあることは理解しておきましょう。

広告運用における機械学習がすすみづらいケースとは

ここからは、上述した機械学習の基本的な挙動について理解したうえで、広告運用者はどのように機械学習に向き合っていけばよいのかポイントを解説します。

1.学習元のデータが少ない

機械学習は過去のデータを学習素材として仮説検証を繰り返していくため、学習元となるデータ量が少ないと機械学習の精度は低下する傾向にあります。入札戦略やキーワードの変更などアカウントに対して再学習を促す調整を行った場合は、機械学習のデータを担保するために約2~3週間程度の学習期間を設けて様子を見たほうが良いとされています。

もちろん、上記の学習期間は杓子定規的なものではなくアカウントのCV数次第であり、目安として各広告媒体では以下のCVが学習に必要な最低CV数だとされています。

💡 主要媒体の機械学習の最適化に必要なコンバージョン数(目安)

Google広告:
・目標広告費用対効果(tROAS)で運用する場合はキャンペーン単位で過去30日に15件以上のCV推奨
・それ以外の自動入札戦略では媒体の推奨はないが、経験上目標コンバージョン単価(tCPA)を利用する場合は過去30日で30件以上のCVが獲得できないと機械学習が上手くはたらかない可能性が高い

Yahoo!広告:
・コンバージョン単価の目標値(tCPA)を活用する場合は過去30日で最低30件以上のCVを推奨
・目標費用対効果の目標値(tROAS)を活用する場合は過去30日で最低50件以上のCVを推奨

Meta広告:
・広告セット単位で1週間に50件以上のCVを推奨(キャンペーン予算で最適化している場合はキャンペーン単位で1週間に最低50件以上)

※上記の数値はあくまで媒体の推奨値であるため、必ずしも推奨のCV数を満たさないと機械学習が最適化されないわけではありません。

参考:Googleの入札アルゴリズムによる学習の仕組み(公式サイト)

2.データが分散されている

機械学習を促進するうえでは、なるべくシンプルなアカウント構成を心がけ、アカウント内でCVデータが分散することを防ぐことが重要だと言われています。予算を分けて配信する必要がなければ同じキャンペーン、訴求内容が同じ場合は同じ広告グループで一本化するなど、アカウント構成を複雑にしすぎないようにしましょう。
以下は目安ではありますが、キャンペーンと広告グループを設定する際の判断ポイントとなります。

※機械学習を促進するためのアカウント構成については、以下の事例で具体的な内容や効果についてまとめていますのであわせてご覧ください。

広告運用の機械学習に関するFAQ

最後に、広告運用における機械学習に関してよくある疑問について回答をまとめました。

Q:何も変更していないのにCPAが上昇しているのはなぜ?

アカウントに対して何も変更していないのにCPAが上昇している場合、機械学習がうまくはたらいていない可能性が考えられます。(上述したモデルケース2に該当)

上述のように、機械学習は過去の広告配信のデータを学習してCVにつながりやすいユーザー群に当たりをつけて仮説検証を繰り返す動きをするため、特に学習素材となるCV数が少ないケースでは
1. 仮説検証の当たりがはずれる
2. 別ベクトルで違うユーザー群に対して広告配信する
3. また当たりが外れる→設定している予算範囲でCVにつながるユーザー群には入札が難しいと判断
4. 配信を抑制して無駄なコストが出ないようにする
5. 配信量が減るのでCV数も減少
6. CVにつながらないため更に配信量が減少する
といった負のループに入ってしまうことも少なくありません。

このような場合、何らかの要因で機械学習のターゲティング要因が落ちた可能性があるため、入札戦略の変更や広告の再入稿など、学習をリセットするショック療法的な調整で成果回復する場合があります。
市場や競合要因など、アカウント以外の外部要因についても考慮したうえでCPAが上昇している要因が思いつかない場合は、一度学習のリセットを検討しましょう。

Q:入札戦略によって機械学習の挙動は変わる?

上述のように、機械学習は「過去の広告配信のデータを学習し、より成果が見込めそうなユーザーや広告を積極的に配信しようとする」挙動をするため、基本的には入札戦略によって大きな変動はありません。

ただし、入札戦略を「コンバージョン数の最大化」に設定した場合は、与えられた予算の範囲内でコンバージョン数が最大になるように機械学習が挙動し、「目標コンバージョン単価(tCPA)」に設定した場合は与えられた目標CPAの範囲内でコンバージョン数を最大化するような動きを取るなど、入札戦略によって細かい挙動の仕方は変わります。入札戦略を選ぶ際は、アカウントの目的に応じて使い分けるのが一般的です。以下は目安ではありますが、入札戦略を選ぶ際の参考にしてみてください。

目的入札戦略挙動
配信量を増やしたい目標インプレッションシェア与えられた予算内で配信量を最大化するように挙動する
流入数を増やしたいクリック数の最大化与えられた予算内でクリック数を最大化するように挙動する
コンバージョンを増やしたいコンバージョン数の最大化与えられた予算内でコンバージョン数を最大化するように挙動する
一定の獲得単価の範囲でコンバージョンを増やしたい目標コンバージョン単価設定したコンバージョン単価(CPA)の範囲内でコンバージョン数を最大化するように挙動する
売上を最大化したい目標広告費用対効果設定した費用対効果(ROAS)の範囲内でコンバージョン数を最大化するように挙動する
コンバージョンの価値に応じて入札を調整したいコンバージョン値の最大化コンバージョンごとで設定した価値に応じてコンバージョンの価値が最大化するように挙動する

Q:入札を強化したのにCV数が増えないのはなぜ?

一概に要因を特定できるものではなく、あくまでケースバイケースではありますが、主に以下の要因が考えられます。

1.CVにつながるユーザーが少ない

たとえばインプレッションシェアが80%を超えている場合や、入札設定額が十分に高い場合などは、CV獲得できるユーザーには広告配信しきっている状態にあると考えられます。この場合の打開策としては、新規のキーワードやオーディエンス、広告文などを試すことで現在の広告ではCVしないユーザー群に対して訴求することで、CV数の増加につながる場合があります。

2.CVにつながるユーザーがいる

設定した入札単価が低いか、機械学習がうまくはたらいていない可能性が考えられます。
以下はイメージ図となりますが、たとえば入札戦略を目標コンバージョン単価(tCPA)5,000円に設定している場合、tCPA5,000円以内で獲得できる入札機会が1件、tCPA8,000円以内で獲得できる入札機会が2件あったとして、より多くのコンバージョンを狙うためには現在の入札単価から8,000円台まで引き上げる必要があります。

上記の図の場合、tCPA5,000円台から8,000円台に引き上げることはより多くのコンバージョン数を狙う上で有効な打ち手となりますが、そこから更にtCPAを10,000に引き上げた場合は、獲得できるユーザーがいないため無駄な広告費を支払うことになります。
実際のところ、自社の広告アカウントで入札単価をどれくらいに設定すればよいかは機械学習の挙動をみながら仮説検証を繰り返していくしかありませんが、Google広告では広告配信のシミュレーション機能が設けられているため、参考として活用すると良いでしょう。

参考:シミュレーションを使用してスマート自動入札の掲載結果を予測する(公式サイト)

Q:特定のキーワードや広告に配信が偏っているのはなぜ?

これは機械学習が成果を最大化するうえでそうすることがベストだと判断したためです。
CPAやROASが著しく上昇している場合は問題ですが、獲得効率が落ちていない、もしくは改善している場合は入札戦略通りに機械学習がはたらいていると考えられるので、そこまで問題視する必要はありません。
ただし、極端に数値変化が大きい場合は機械学習以外の要因も考えられるため調査が必要です。

まとめ

広告運用における機械学習のアルゴリズムはブラックボックス化されており、実際のところどういうロジックで動いているのか窺い知ることはできませんが、広告アカウントに対して加えた調整に対して配信成果がどのように変化したのか挙動を把握することである程度推測することは可能です。
今回の記事の内容を参考に、広告運用の土台となる機械学習の仕組みについて学びを深めてみてください。

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この記事を書いた人

株式会社オーリーズ

アドオペレーションズ・ストラテジスト

清水 健太

大学卒業後、アクセンチュアに入社。ITコンサルタントとして大手ハイテク企業に対し主にCRM(Salesforce)導入の要件定義・PMO・カスタマーサクセスに携わる。CRM導入支援を通じてデータが十分にマーケティング活用されていないことを目の当たりにし、デジタルマーケティングの道に進むことを決意。オーリーズでは「手を動かせるコンサルタント」を目指し日々邁進中。

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