- B2B/SaaS
- 宇賀田 徹
BtoB事業の広告運用にあたって知っておくべきマーケティングフレームワーク 第1回 The MODEL
今ブログ では、“今すぐ人に話したくなるマーケティングの話”をテーマに、マーケティングに携わる人間が知っておくべき知識や、抱きがちな悩みに対するアドバイスを発信しています。 今回の記事は、
- BtoB事業で運用型広告を始めたばかり
- マネジメント担当として新人教育に使える記事をみつけたい
- マーケティングの考え方やプロセス、全体像をざっくり頭に入れておきたい
という方に、ぜひ読んでいただきたい内容です。
【はじめに】なぜ広告運用者がマーケティングフレームワークを知る必要があるのか?
オーリーズでは、SaaSを始めとしたBtoB事業に対する運用型広告に関して、数多くのご相談をいただいてきました。そのなかで、初期にいただく課題として多いのが、
- リード獲得数の底上げを目的とした新規メディアの開拓
- CPA低下のためのアカウント最適化や、クリエイティブ(あるいはプロセス)の改善
というものです。しかし我々がその課題を紐解いていくと、そもそも
「現場の“戦略”理解ができていないまま、“戦術”部分の課題改善を進めているがゆえに、
思うような結果に結びついていない」
というケースが多く見受けられます。具体的には、
- 広告運用者にとって“運用改善作業”が仕事の目的になっている
- マネジメントや発注する側も、その現場に疑問を持っていない
- 疑問があっても、無意識のうちに許容している
という状態です。
運用型広告はあくまでも“事業成長”のための手段であり、
事業戦略からブレークダウンされた戦術の一つであるはずです。
では“戦略と戦術の分断”はなぜ起きるのでしょうか。
その一つに「広告運用者の過度なスペシャリスト化(戦術に囚われすぎ問題)」があります。
昨今ではGoogle広告のような機械学習(AI)化によって、運用がシンプル化される流れがあります。しかし依然として、アカウントには充実したレポーティング機能や、調整可能なパラメータが豊富にあり、実際にこれらをやりきることで成果に差が出るのも事実です。
そのため、この差を出せる運用者は評価され、ゆえにスペシャリスト化していく構図があります。結果、広告運用者が運用型広告の知識やスキル習得“ばかり” に時間を使ってしまうのです。
こういった“運用改善”は、プラットフォームごとにベストプラクティスが決まっており、それらを一通り実装すると成果の改善幅は鈍化していきます。また、 “成果”としているKPIが適切でなかった場合に、「“運用改善”は達成したのに、KGI(売上や利益)は思うように上がらない」ということが起きがちです。
このような“成果の頭打ち”が起きた際に、広告の運用方針をディレクションする立場の人間が、裏にある構造を理解し、戦術ではなく戦略の部分を組みなおすことが求められます。
ただし、ここで問題が発生しがちです。なぜなら多くの場合、広告運用の責任者は運用型広告のプロではありません。仮に精通していたとしても、マーケターとして様々な業務を兼務していて、考察に十分な時間を取れないケースが多々みられます。
そこで、運用者が戦略に対して理解を深め、戦略と戦術の橋渡し役を務めることが重要になってきます。これは、現場感を持っている運用者が日々の改善活動でその限界をいち早く感じており、「抜本的な改善策を出さなければならない」という力学が働いていることからも言えます。
このような背景から、今回はBtoB事業にフォーカスし、戦略理解を助けるための代表的なマーケティングフレームワークを、数回に分けて紹介していきます。
初回はThe Modelです。多くのSaaS企業がThe Modelを参考に、マーケティング・セールス組織を運営しており、マーケティングに関わる人の共通言語として、知っておくとよいフレームワークです。
まずは紹介するフレームワークや用語について“聞いたことがある”という状態を目指し、ゆくゆくは“理解している”状態へ進めると理想的です。より詳しく知りたい方向けに、参考書籍も紹介していますので、気になる方はあわせて読んでみてください。
また、現場での活用イメージもセットで紹介しますので、「なぜこれを理解しておく必要があるのか」を納得感をもって読み進めてもらえるはずです。
The Modelとは
The Modelは、マルケトの代表を務めた福田康隆氏の著書『The Model マーケティング・インサイドセールス・営業・カスタマーサクセスの共業プロセス』により、広くビジネスパーソンに知られるようになりました。
The Modelの特徴はざっくりいうと以下の2点です。
- 営業プロセスを4つに切り分け(マーケティング、インサイドセールス、フィールドセールス、カスタマーサクセス )、各段階での情報を個別に数値設定、可視化する
- 担当する部門同士が連携する仕組みによって、顧客満足の向上を図る
4つに分担することで、各担当部門の専門性を高めることができ、部門ごとに実績や達成状況を確認できるので、営業プロセス内の課題も見つけやすくなるというメリットがあります。
そして、特に広告運用者が知っておく価値があると感じるThe Modelの内容に、「リサイクル」の考え方があります。先程紹介した書籍の、第1部 第3章の一説に以下の話があります。
一度商談まで進めても、途中で失注するものもある。受注した後も本来であればアップセル、クロスセルの可能性があるのに、営業のフォローが追いつかずに放置顧客となってしまうこともある。つまり、ビジネスを続ければ続けるほど、このような商談に至らないリード、失注、未フォローの既存顧客の数は増えていく。ここから再び商談化のプロセスへとリサイクル(循環)させる流れを作り、再度見込客にできれば、劇的な効果が見込めるはずだ 考えた。
この「リサイクル」の考え方は、広告運用の現場でも非常に重要な観点です。なぜならこれにより、許容CPAを的確に引き上げられるからです。
「もう少し許容CPAが高ければ、もっとアグレッシブな運用をしてCVを増やせるのに…」。
広告運用に携わる人が、一度は思ったことがある悩みではないでしょうか。許容CPAは「広告経由で獲得したリードが、直接的に商談や契約につながる場合のみ」を評価して算出されることが多く、リードナーチャリングにより数カ月後に商談化できるパターンの期待値を入れ込みづらいのが難点です。
しかし「数カ月後に商談化させる仕組み」と「それをトラッキングする環境」が整っていれば、広告経由のリードの商談化率は上がり、たとえ許容CPAを上げてもROIが合う可能性があります。
このような絵を頭で描くことができると、例えば下記のような一歩踏み込んだ議論が広告運用者からできるようになります。
ケース①(許容CPAの場合)
現状の許容CPAは〇〇円ですが、これをXX円まで引き上げることができれば、獲得できるリード数が1.3倍になると予想されます。
それはいいですね。ただ社内の事情でこれ以上は難しくて…
リード獲得数を増やすために許容CPAを引き上げることができればいいのですが、ナーチャリングの仕組みに改善余地はないでしょうか?
ケース②(CVポイントの場合)
現状設定しているCVポイントは”資料請求”と“お問い合わせ”だけですが、この状態ではこれ以上CPAを下げるのは難しいです。
そうなのですね…とはいえ、なにか対策を講じることはできないのでしょうか?
ただし、“e-bookのダウンロード”をCVポイントとして設定すれば、これまでコンバージョンしなかったような層も獲得できるので、CV数を2倍以上に増やすとともに、CPAを半分以下にできると思います。
ですので、ナーチャリングする仕組みを整えることで、e-book経由のリードから商談までの歩留まりを、現状の2倍以上に引き上げることはできないでしょうか?
目先のCPAに固執することなく、ナーチャリングの仕組み改善へと視点を変えることができています。The Modelの理解を深めることで、事業のマーケティングやセールスの仕組みに対し大局観を持てると共に、運用型広告が陥りがちな、“戦術の改善だけでぐるぐる回っている状態”から抜け出すきっかけにもなります。
このように、自分の領域に関わりのあるフレームワークを頭に入れておくことで、自身の業務を俯瞰することができ、思考の整理やバイアスから抜け出せるという効果があるのです。
第2回は「PLG (Product Led Growth) とSLG (Sales Led Growth) 」をテーマにした記事を公開予定です。また、本記事はBtoB事業にフォーカスしていますが、BtoC事業の広告運用にも活用できる記事も公開していきますので、ぜひ参考にしてください。