広告運用の分析を倍速にする「抽象化思考」

広告運用の分析を倍速にする「抽象化思考」

世の中には、どんな職種や業務でも要領よく仕事を覚えることができる人がいます。この人たちにはいくつかの特徴があります。その代表例の一つに、「抽象化思考力」が挙げられます。今回はその概念と価値について、運用型広告業務の身近な例から考えてみます。

抽象化の概念

まず「抽象化」の意味について触れておきます。細谷功氏の『具体と抽象』では以下のように説明しています。

抽象化とは一言で表現すれば、「枝葉を切り捨てて幹を見ること」といえます。文字どおり、「特徴を抽出する」ということです。要は、さまざまな特徴や属性を持つ現実の事象のなかから、他のものと共通の特徴を抜き出して、ひとまとめにして扱うということです。

さらに平たく言えば、以下のように言うことができます。

  • 具体:個別のこと
  • 抽象:まとめて同じとして扱うこと

つまり、「具体」は一つ一つの個別事象に対応したもので、「抽象」はそれらを共通の特徴で一つにまとめて一般化したものということです。イメージで表すと、以下のような概念図になります。※同著より引用

抽象化の価値

では、抽象化にはどのような価値があるのでしょうか。同書では以下のように説明しています。

複数のものを共通の特徴を以てグルーピングして「同じ」と見なすことで、一つの事象における学びを他の場面でも適用することが可能になる

これをもう少しビジネスシーンに寄せると、以下のようにも言えそうです。

筋の良い結論(問題の原因特定、課題設定、施策立案など)に、少ない労力でたどり着くことが可能になる

抽象化思考とは、身の回りの事象にパターンを見出し、それに名前をつけ、法則として複数場面に活用することです。これにより、効率的に物事を考えることができるようになります。

広告運用における抽象化思考のパワー

さて、その抽象化の価値について、運用型広告の業務を具体例にして考えてみます。

たとえば、こんなケースがあったとします。 (代理店目線で恐縮です)

お客さまの担当者が変更になり、新しい担当者から広告成果についてこんな依頼を受けました。
“過去の実績を確認したところ、リターケティングのCPAが徐々に上昇傾向にあり、危惧をしています。原因と対策をご教示ください。”

さて、この問いに対する答えについて「具象」をひたすら列挙してみます。

  • オーディエンスリストを変更したことで、効率の悪い広告配信が増えている
  • 新規リーチ系広告の配信が減少傾向にあり、オーディエンスリストが減少している
  • 新しいクリエイティブアセットを追加したことで、効率の悪い広告配信が増えている
  • 広告予算が増加したことで、リターゲティングの配信金額が増加している
  • モバイルやタブレット面への広告露出が増えたことで、効率の悪いクリックが増えている
  • アプリ面への広告露出が増えて、効率の悪いクリックが増えている
  • 入札戦略を変更したことで、入札の効率が落ちている
  • 広告関連の計測タグに不具合が生じ、CVが計測できていない
  • 効果計測用パラメーターに不備があり、広告関連の計測ツールでCVが計測できていない
  • 成果の根拠となるExcel集計の関数に不備があり、一部のCVデータが集計から漏れている
  • 広告関連の計測タグがITPに対応できていない
  • 自社のポイントキャンペーンの付与率が徐々に下がっている
  • 商品在庫が不足しがちで、顧客が購入機会を逃している
  • 主力商品の商品価格が過去と比べて上昇している
  • 商品お届け保障の期間が過去と比べて遅くなっている
  • サイトのファーストビュービジュアルを変更したことで、顧客の離脱が増加している
  • 競合他社が値下げキャンペーンを始めたことで、顧客が競合他社に流れている
  • 売れ筋の商品カテゴリーで専門サイトが登場し、価格面での競争力が弱まっている
  • 競合他社がサイトをリニューアルをしたことで、顧客体験における競争力が弱まっている
  • 競合他社が広告費を大量投下したことでオークションプレッシャーが高まり、CPCが高騰している
  • 季節性の影響からターゲット顧客の需要が低下トレンドにある
  • 最新バージョンのiOSユーザーが増加し、ITPの影響が大きくなっている
  • モバイル利用増加により、モバイル未対応のサイトは、全体のCVRが相対的に下がる

このように「リタゲのCPA上昇」の原因は、大きいものから小さいものや、外部要因から内部要因までさまざまです。

これらの「具象」を片っ端から確認していては、大変な時間がかかってしまいます。また、調査のために多くの質問をすることになり、コミュニケーションの負担も大きくなることでしょう。加えて、具象を列挙するアプローチは、「その具象を知っているかどうか/想起できるかどうか」が原因特定の成否を決めてしまうという大きな問題があります。

ここで、抽象化思考が力を発揮します。

抽象化思考力のある人は、頭の中に「問題切り分けの切り口」をつくりだします。以下のようなイメージです。

複数のものを共通の特徴を以てグルーピングすることで、「各グループをバッサリと切り落とすことのできる情報は何か?」という原因特定のアプローチを取ることができるようになります。

たとえば、次のような質問をします。

Q.どのデータですか?
A.前回の定例会でいただいたExcelレポートです。
➡お、確かそのExcelレポートは、広告効果計測ツールのCV数で成果を集計しているぞ。媒体実績ではどうだろう。

Q.いつの期間ですか?
A.半年間の月別データです。月を追うごとに成果が悪化しています。 
➡半年間という長期間で影響を受けているのか。となれば、直近の広告や商品・サービスの施策や企画の影響は可能性として低そうだな。

Q.どの媒体ですか?
A.Google 広告です。このメニューだけ成果が下がり続けています。 
➡特定のプラットフォームだけか。トレンドや競合などの外部要因である可能性は低そうだな。

Q.具体的にはどのキャンペーンですか?
A.Google 広告の「リマーケティング」というキャンペーンです。 
➡ダイナミックリターゲティングも配信しているけど、そっちは大丈夫なのか。ますます外部要因の可能性は低そうだ。

抽象化された構造を頭の中に描くことができていれば、これら4つの回答だけで、以下の判断を取ることができます。

  • 外部要因の可能性は低い
  • 内部要因>サービス領域の可能性は低い

さらに事実確認を取るために、広告の管理画面でも実績を見てみます。すると、Excelレポートほどの悪化は確認できませんでした。

ここで、「Google広告の通常リマーケティングのみ、Excelレポート上の実績でCPAが徐々に上昇している」という事実整理ができました。ここまで分かれば、疑うべきは「計測」領域となります。これにより、「内部要因>広告>運用」領域も切り落とすことができました。

抽象化思考によって、4つの簡単な質問だけで、考えられる原因の80%を捨てることができました。

その後、「計測」領域を調べた結果、

リマーケティングのレスポンシブ広告で「商品データフィードの利用」が「ON」になっていたことで、データフィードを利用したクリエイティブパターンにおいては、広告効果計測ツールのパラメーターがセットされずに広告配信されていた。つまり、計測漏れが発生していた。

ことが分かりました。

もし、抽象化思考を駆使することなく、「思いついたこと」や「心当たりのあること」といった、具体的・主観的なことから手をつけていたら、原因特定までに何倍もの時間を要していたかもしれません。

この「問題切り分けの視点」と「質問の切り口こそ」が、抽象化思考の賜物です。

「勘と経験」よりも、抽象化思考を身につけよう

抽象化して考えることを「思考法」として理解し、使いこなすことができるようになれば、どんな種類の職種や業務でも、少ない情報や経験の中から筋の良いアウトプットを出すことができるようになります。まさに「一を聞いて十を知る」人になることができます。

まずは、抽象化思考の価値を理解し、活用することに自覚的になることが大切です。

そうでなければ、上述したケースも、「広告運用の問題は、とりあえずココとココを抑えておけばよい」といった、いわゆる「経験と勘」として身につくに留まってしまいます。経験と勘は「ドメスティックで属人的な知識」となり、他人に教えることができません。

ドメスティックな知識を持ったエキスパートに留まるか、どんな環境でも「一を聞いて十を知る」人になることができるかは、抽象化思考力次第といえます。その意味で、すべての仕事は高次でつながっているのです。

この記事を書いた人

株式会社オーリーズ

取締役副社長

足立 誠愛

在学時に現代広告の研究室に所属。実践主導の研究活動を通じて広告コミュニケーションを学ぶ。その後にワークスアプリケーションズのインターンシップに参加し、最高ランクの評価を獲得し、同社に入社。ERPパッケージ「COMPANY」導入・保守運用部門のコンサルタントを経て、アカウントマネージャーとして顧客の最終責任を担い、クライアントと組織のROI向上に邁進。2013年より株式会社オーリーズ取締役副社長に就任、事業開発を担う。

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