- ナレッジ・ノウハウ
- 浅井 彰吾
1人の学びをチームの学びに。完璧を捨てて、「まず発信する」が大事な理由
ひさびさに野中先生の「知識創造の方法論」を読んでみました。SECIモデルという、個人の「暗黙知」をチームの「形式知」に変えていく理論。
以前に触れた時はその本当の価値に気づけていませんでしたが、今回、現場の課題感を持って読み返すことで、個人が持つ暗黙知を言葉にすることの重要性を実感するようになりました。
特に、AIが普及した今、個人の暗黙知を言葉にする重要性が増している気がしました。
頭の中に眠っている暗黙知
広告運用の仕事をしていると、「あ、このパターンは前もやったな」とか、「この設定はこっちの方が効率がいい」といった、言葉にしづらい“コツ”や“勘”が個人の中に暗黙知として溜まっていきます。
自分の経験をチームミーティングで共有すると、「これ自分も同じミスをしていたかも…」という反応が返ってくることもよくあります。
誰かが体験したことは、他のメンバーにとっても価値がある。チームで共有できているのはほんの一部で、頭の中では分かっているのに、言葉にできていない知識がたくさんある。
そういう暗黙知が、自分の中に眠ったままになっていました。
完璧に整理しようとすると、何も出せない
ただ、いざ暗黙知を共有しようと思っても、「ちゃんと整理してから」と考えてしまう。
社内で共有するなら、きれいにまとめた方がいい。施策の判断基準や数字の読み解き方も、体系的に整理してから書こう。そう思っているうちに、時間が経ってしまう。
きれいにまとめようとするうちに、情報が古くなる。あるいは、別のタスクに追われて結局できないまま終わってしまう。
自分も含めて、一人一人がチームの成長につながる知見を持っている。でも、「完璧でないと出せない」という思い込みが、ナレッジの流通を妨げていたんです。
暗黙知をどんどん外に出して、整理はAIに任せればいい
完璧に整理できないなら、どうすればいいのか。そう考えたとき、SECIモデルをもう一度思い返しました。そして気づいたのは、今の時代、「体系的に整理する」という作業はAIに任せられるということでした。
AIが得意とするのは言語化された知識と知識を組み合わせ、体系化すること。
一方で、暗黙知を知識に変えるのは人間にしかできない。個人が頭の中で考えていること、体験から得た気づき。それを外に出さない限り、AIは何も始められない。
今はテキストで詳細をまとめなくても、録音して文字起こしができます。口に出せば、それが形になる。それをAIにまとめてもらえば、形式知として他の人に共有できる。他の人の知識と組み合わせて活用することもできる。
だから、完璧に整理できていなくてもいい。まず自分の考えを外に出すことが第一歩なんだと思うようになりました。
間違いを恐れず、発信する文化を作る
私が自分のスタンスとして大事にしているのは、思っていることを口に出す、文字に起こすなど、「まず言葉にする」ことです。
チームMTGの場でも良いし、社内のチャットツールで発信するでも良い。とにかく、間違いを恐れずに発信する。情報のアップデートがあれば、誰かがその情報を更新してくれる。完璧でなくても、まず出すことに意味がある。
こういった気づきから、私は最近、
- 自分が率先して組織に情報発信し、「発信しても良いんだ」という空気感をつくる
- メンバーの発信をまず受け取る。勇気をだして発信してくれたことを賞賛する
- 録音ツールに考えていることを吐き出し、AIで整理をしたものを組織に共有する
といった取り組みをしています。これらを率先して取り組むことで、徐々にではありますが、チーム内の情報共有が以前より盛んになったと感じます。
一人一人が自分の暗黙知を言葉にすることが、組織のナレッジを育てる第一歩になる。AI時代だからこそ、その価値は高まっていると感じます。