- ナレッジ・ノウハウ
- 小金沢 蒼士
「無理そうなこと」をなんとかするのが仕事
大学生の頃、ベトナムのインターンで、海外事業の最前線で戦うチームメンバーから厳しい指導を受けた経験があります。
「無理ってのは最初から分かってる。それをやるから仕事なんでしょ」。当時は自分の限界を決めつけていた私ですが、今はこの言葉を胸に仕事をしています。
「無理」を前提に動けば、そりゃ無理になる
私はインターンシップとして、ベトナムの店舗で、日本から来た大学生に仕事を体験してもらうプログラムの運営メンバーを担っていました。運営チームは、私以外全員が海外ビジネスの経験豊富なベテランです。
ある日、現地の店舗スタッフと日本人大学生の交流イベントを企画することになりました。ただ、一つ大きな問題があり、スタッフたちを参加させるには、営業時間中に店を閉めてもらう必要があったんです。
この話が出たとき、「交流イベントのためにお店を閉めさせるなんて無理じゃね…?」と思っていました。でも説得を命じられ、しぶしぶ店長のもとへ。
案の定、どの店舗からも断られました。
仕事の「前提」が、そもそも違っていた
「頑張って説明はしたんですけど、やっぱり無理でした。」
チームに戻って言われたメンバーからの言葉が忘れられません。
「いや、無理なんて最初から分かってて指示を出したんだけど。でも、無理なことをやるから仕事じゃない?できないことをやることに価値があるんですよ」
現地のメンバーにとっては、無理なことをやるのが当たり前。私だけ、基準が低かったんです。この人たちの前では、無理で終わらせられない…。覚悟を決めて、もう一度交渉に行きました。
1回目は「店舗閉められます…?やっぱダメですかね?」くらいのやり取りしかしていませんでした。
2回目の交渉では、すべてを変えました。口調も、表情も、コミュニケーションの丁寧さも。さらに、店長がどんなことに悩んでいるのか、時間をかけて聞きました。
見えてきたのは、スタッフのモチベーション管理や店舗運営の課題。それらを踏まえて、店長に
「大学生との交流は、スタッフにとって新鮮な刺激になる」
「日本から来た大学生の視点が、店舗改善のヒントになるかもしれない」
「参加したスタッフが、普段とは違う視点で仕事を見直すきっかけになる」
店舗の課題を解決する方法として、交流会を提案しました。
最終的に、店長は私の提案を受け入れてくれました。「やりきったぞ!」という気持ちで意気揚々とチームに戻った私とは対照的に、チームメンバーは「まあ、そりゃそうだよね」という感じ。
この場でビジネスを作ってきた彼らにとっては、出来ないと思うことをやり遂げるのが当たり前でした。
「自分には無理だ」と感じる仕事こそ、取りに行く
この経験が、今の私の仕事観のベースになっています。あれから数年。私もようやく「当たり前」のレベルが変わってきました。
私は広告未経験でオーリーズに入社しましたが、「自分には無理だ」と感じるような仕事こそ、積極的に巻き取ることを意識して働いてきました。
入社直後にアサインされたのは、過去に大手代理店が運用を歴任してきた案件。クライアントも広告に精通しており、管理画面でできることはほぼやり尽くされていて、99点を100点にするような世界。
クライアントの事業をさらに伸ばすには、管理画面に閉じた改善では限界がある。LPOなどクリエイティブ領域への支援が必要でした。
でも、当時の私はLPOなんてやったことがありません。歴代のPMも果たせなかったクリエイティブの提案は、自分にとってハードルの高い挑戦。ただ、管理画面を超えた改善提案がなければ、今後クライアントの信頼を勝ち取ることは難しい。そう考えて、無理は承知で踏み込みました。
最大の壁は商品理解でした。製品が100種類以上あり、しかもBtoB業界のニッチ商材。アサインされたばかりの私が、クライアントと同じ水準で製品を語れるようになるには、生半可なインプットでは足りません。
競合他社も含めて、製品カタログを片っ端から読み込み、どんな人が、どんな場面で、どんな課題解決のためにその製品を使うのかを、自分の言葉で語れるようになるまで勉強しました。
また、管理画面の検索クエリデータを洗い出して、ユーザーが抱えているニーズのうち、まだ訴求できていないポイントはないか、毎日案を出し続けました。
そうしたインプットをもとにLPモックを制作し、クライアントに提案。担当者からは「この短期間でここまでのクオリティで持ってきてもらえると思わなかった。本当に驚きました」とコメントをいただき、その後クリエイティブ領域も相談される関係性を築けました。
また、入社して1年が経過し、徐々に広告運用に慣れてきた頃は、営業を担当していた役員に「新規案件の提案もやらせてください!」と声をかけ、営業にも挑戦しました。
運用型広告の提案は、1年で数千万~数億単位のお金が動くこともあるため、クライアントは慎重に意思決定をします。
そんな顧客に安心してアカウントを任せてもらうには、顧客の課題が何か、既存アカウントの伸びしろがどこにあるか、自分の集中力が続く限り考え抜いて、皆が腹落ちする方向性を見出す必要がありました。
ただ、それらを全て伝えるとクライアントの認知負荷が高いため、重要な要点をまとめた上で、「それなら行ける」と実感を持ってもらえるように伝え方を調整することも必要です。
でも、初めての提案作成で右も左も分からない私には、その勘所が全くありませんでした。
そんな状況のなか、提案前に毎日役員と壁打ちをして、前提となる課題分析から提案のストーリー設計、デリバリーの言葉遣いに至るまで徹底的に叩き上げました。
大手代理店とのコンペで決して易しい案件ではありませんでしたが、クライアントからは「弊社のことを一番理解してくれたのは小金沢さんでした。その熱量に賭けてみます」とお言葉をいただき、初提案の案件を受注につなげることが出来ました。
諦めなかった一つ一つの経験が、私を支えている
試行錯誤の過程でたくさん失敗はしましたが、常に自分へのハードルを上げて仕事に向き合い続けた結果、入社7か月目で新人賞、1年半でメンバーマネジメントを任される立場になりました。
「これは自分の仕事じゃない」と思うことにこそ手を出す。自分の当たり前を引き上げることができたからこそ、現在は「チームメンバーの基準を引き上げること」が私の役割だと思っています。
無理だと思ったことをなんとかするのが仕事。一見無理に見えることも、やり方を変えれば、工夫すれば、粘り強く続ければ、できることって多いです。
無理だと思うことに挑戦し続ける。全部はできなくとも、「無理だ、できない…」を突破した経験が成長につながる。
無理だと諦めなかった一つ一つの経験が、今の私を支える原動力になっています。これからも自分自身の限界線を越える挑戦を、続けていきたいと思っています。
この記事を書いた人
株式会社オーリーズ
アドオペレーションズ・ストラテジスト/チーフ
小金沢 蒼士