僕らは広告運用のプロである前に、サービス業だ

僕らは広告運用のプロである前に、サービス業だ

数年前、あるチームのクライアント定例会に同席したときのこと。

会議の進行は丁寧。説明もロジカルで分かりやすい。でも、何かが足りない。クライアントとの間に見えない壁があるように感じました。

そのときの違和感を社内のNotionにまとめて、チームに共有しました。テーマは「サービス業としてあるべき姿勢」

広告代理店としてやるべきこと、たとえば成果を報告する、専門的な知見を提供する、改善策を提案する。これらはできている。でも、その「前」に必要なことがある。

せっかく言語化したので、顧客情報を伏せてシェアしてみます。

この業界で働く方や、オーリーズに興味を持ってくれている方に届けば嬉しいです。

以下、フィードバック内容

A社様チームのみなさんへ。

今回、定例会に同席する機会があったので、より良い支援のためにフィードバックをさせてください。

率直に言うと、「サービス業としてあるべき向き合い方ができていないぞ」「クライアントが受けるべき顧客体験を提供できていないぞ」と思いました。

僕らは広告運用のプロである前に、サービス業です。

広告代理店としてやるべきこと、たとえば事実を正確に伝える、良し悪しの要因を説明する、改善案を提案する。これらのことは、しっかりできていました。

でも、そういった専門性の「前」に、サービス業としてあるべき姿勢があります。

そのことについて、ちょっと長くなりますが下記にまとめました。

サービス業の価値の成り立ち

最初に、私たち広告代理店のようなサービス業が、どのようにしてお客様に価値を認めてもらえるのかについて、少しだけ説明させてください。

以前サービス・マーケティングという本を読んで、こんなことが書いてありました。

企業が提供するものには、「モノ的(有形性が高い)」なものと「サービス的(無形性が高い)」なものがあります。私たちのような広告代理店は「サービス的」な仕事です。

書籍『サービス・マーケティング– コンサル会社のプロジェクト・ファイルから学ぶ』から引用

このモノとサービスを比較したとき、サービスには「無形性」「同時性」「変動性」「消滅性」という4つの特性があるとされています。

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(同書より)

この中の「同時性」という特徴を読んで、なるほどなと思いました。

サービスは「生産」と「消費」が同時に起こる。つまり、サービスが提供される「その瞬間」に、消費者がその場にいる。その場にいるからこそ、消費者の反応や要望が、サービスの質や内容に影響を与える。

だから、消費者は単なる「受け手」ではなく、サービスの「共同生産者」と捉えることができる。

美容院を例にすると分かりやすいです。「良いヘアスタイル」をつくるには、顧客からの「適切なオーダー」が必要。イメージがうまく伝わらなかったり、美容師のアドバイスを聞き入れなかったりすると、どんなに腕の良い美容師でも満足のいく仕上がりにはならない。

良いサービスを提供するには、「良いオーダー」と「良いやりとり」が必要なんです。

つまり、私たちの仕事には「クライアントが価値の共同生産者である」という性質がある。私たちだけでは、支援の価値を十分に高めることはできないということです。

言われてみれば当たり前の話なのですが、良い支援をするために、この性質をしっかりと腹落ちさせたいです。

※ちなみにこの書籍の本題は「モノも含めて、すべてのビジネスは『サービス』である」という考え方です。今回は広告代理店の仕事の特徴を際立たせるために、あえて「モノ」と対比して説明しましたが、興味のある方はぜひ読んでみてください。

では、この「一緒につくる」を実現するには、どんな状態を目指せばいいか。その一つが「問題の第三者化」です。

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問題の第三者化とは、私たちが「クライアントに解決策を提供する」のではなく、「クライアントと共に問題に向き合う」という構図をつくること。図のように、対面ではなく並列になって、一緒に問題を眺めている状態です。

対面の構図のままだと、私たちはどうしても「報告する側」や「説明する側」になりがちです。すると、お互いの間に見えない壁ができて、本音や背景情報が共有されづらくなる。

並列の構図をつくることができると、「一緒に考えている」という場が生まれます。お互いに「実はここが気になっていた」「こういう方向性はどうだろう」といった率直なやりとりがしやすくなって、課題の本質に早くたどり着けるようになります。

もちろん、「お金をもらう側が問題を解決する」という考え方自体は間違いではないし、ある意味では正しいです。ただ、その認識のままだと、自然と左の「対面の構図」に近い関係に落ち着きやすい。

だから、意識的に「どうやって右の構図をつくるか?」を考えることが、支援の大きなテーマになります。

問題の第三者化を実現する方法はいろいろあります。契約形態、報酬形態、情報共有の内容や頻度、役職者とのリレーション、川上からの関与…など。

今回は定例会がきっかけのフィードバックなので、「会議の場」でできることに絞って考えてみます。

定例会で気になった点

質問に「答えよう」としていて、「応えよう」としていない

具体的なシーンを挙げます。お客様からこんな質問がありました。

「Criteoの全盛期ってどれくらいでしたっけ?」(配信金額とCVが大幅に減少している現状に対して)

これに対して皆さんは、

「ちょっとお待ちください(データを見る)…Criteoの全盛期は今の2倍くらいですね。媒体社に問い合わせても原因不明で、私たちも特に設定は変えていないので、はっきりとした理由は分かっていません」

と回答して、そこで話がしぼんでいました。

客観的な事実を伝えるという意味では、ちゃんと「答えて」います。ただ、「応えて」はいない。

お客様は、実際のところCriteoの全盛期がどうだったかを知りたいわけではないと思います。報告された事実に対して、「この状況をなんとかしたい」と思っているはず。

ただ、いきなり「対策はどう考えていますか?」と聞くのは角が立つ。それに、広告運用で分かることやできることにも限界があるから、すべてに答えを求めているわけでもない。

だから、質問の形をとっていても、その奥には「なんとかしてほしい」「一緒に考えてほしい」という気持ちがあるはず。

つまり、この質問には「応える」必要があるんですね。

「答える」と「応える」には、こんな違いがあります。

「答える」の場合、相手から投げかけられるのは質問や問題です。よって、相手に返すのは返事や解答といった具体的な返答となります。一方の「応える」の場合には、相手から受け取るのは、期待や要望などの漠然としたものです。そうした働きかけに対しては、相手の意図に添うような言動で応じる必要があります。

「答える」と「応える」の違いと意味・使い方(例文)|類語・言い換え表現つき

「答える」だけなら、客観的な事実を伝えれば終わります。

でも「応える」ならば、相手から受け取るのは漠然とした期待や要望。言葉にされていないものを明らかにすることで、はじめて応えられるようになります。だから、お互いの情報交換が必要になります

具体的には、まず相手の「なんとかしたい」という気持ちを汲み取り、「私たちもなんとかしたいと思っている」と言葉にして伝える。そして、「どう思いますか?」と相手の考えも聞く。

会話にするとこんなイメージです。

「Criteoの全盛期は今の2倍くらいありました」(質問に答える)
「媒体社にも問い合わせたんですけど、原因が掴めてないんですよね…私たちも、なんとかしたいとは思っていまして」(相手の期待を汲み取り、言葉にする)
「他のリタゲが伸びてきてるので、そっちでカバーする方向を考えているんですが、〇〇さん的にはどう思いますか?」(こちらの考えを伝え、相手の考えも聞く)

この情報交換が起きると、話し合いが生まれます。話し合いが生まれると、問題は自然と「二者の外側」に移っていく。

「質問に答える人」と「答えを受け取る人」という対面の関係から、「一緒に問題を眺めている」並列の関係に変わるんです。

原因が分からなくても「じゃあどうするか」という議論に進めるし、私たちだけでは気づかなかった論点が出てくることもあります。

事実を伝えて終わりではなく、対話を生み出す。それが「応える」ということであり、並列の構図をつくる第一歩です。

お客様の話す量が少ない

次に、シンプルにお客様の話す量が少ないと思いました。定例会の8割9割をオーリーズが話していた気がします。

目指したいのは「問題の第三者化」「並列の構図」「共同生産」です。定例会の目的次第ではありますが、月に数回の直接会話する機会を、こちらが話し倒して終わるのはもったいないです。

「参加なくして決意なし」という言葉がありますが、人は自分が関わっていないものを自分ごと化しづらい。だから、具体的なトピックを起点に、お客様の意見や感想を引き出して、「一緒に整理する」プロセスを展開したい。そのためには、まずたくさん話していただくことが大事です。

会話を重ねると、お客様の視点が分かってきます。すると、自然と言葉選びもお客様目線になり、「一緒につくる」状態に近づいていきます。

わざわざ主従の強さを意識させるような言葉を使わない

実績を報告する際に、「今月の〇〇領域の評価は『◎』とさせていただいております」といった話し方をしている人がいましたが、これはよくないです。こういう過剰な敬語は、不必要に主従関係を意識させ、「対面の構図」を強化します。

A社様とはもう何年も取引があり、担当者もほとんど変わっていない。「とさせていただいております」は「としました」で十分です。「といたしました」ですら、過剰だと思います。

こういう小さなことの積み重ねが、関係性をつくっていきます。心理的な距離があると、お客様も率直なことを言いにくくなる。「こういう方向性でやってほしい」「実はここが気になっている」といった本音が出てこないと、私たちも良い支援ができません。

ノリを合わせる

私たちからの報告の一部について、お客様が何度か「いいですねー」と前向きなコメントをしてくれました。でも、皆さんの反応は薄く、淡々と聞き流していました。(オンラインでみなさんの反応をちゃんと見られていたわけではないので、もし見逃していたらすみません)

この件に限らず、定例会全体の印象として、進行は丁寧なんですが、なんだか淡々としているなと感じました。

「良い接客」とは「丁寧であること」だけではありません。相手にとって心地よいコミュニケーションができること。接客の良さは絶対的なものではなく、相手次第で変わります。だから、お客様のテンションに合わせたり、共感したりして、「楽しい」「心地よい」「前向きになれる」と感じてもらうことが大事です。

お客様が「いいですねー」と言えば、「まだ気を抜けないですが、良いトレンドになってきて良かったです」と感想を述べたり、「これは私もちょっと嬉しかったです」と共感したり。そういう一言があるだけで、会の雰囲気が前向きになり、一体感が生まれます。

もちろん、変に迎合しようという話ではありません。相手の温度感に合わせた心地よい空間をつくること。それも、大切な予算をお預けいただいている支援会社が果たすべきプロ意識だと思います。

以上が、フィードバックの全文です。

同じ業界で働く方のヒントになれば嬉しいです。オーリーズで働く雰囲気も伝わっていたら幸いです。

Written by

足立 誠愛
取締役副社長
大学では現代広告の研究室に所属。新卒でワークスアプリケーションズに入社し、基幹システムの導入やコンサルティング業務を経験した後、代表と共にオーリーズを創業。 広告代理店として非分業型の組織体制とNPS経営を軸に、「まるで内製のような外部支援」を掲げ、顧客志向を徹底したマーケティング支援に取り組んでいる。現在は副代表として事業開発と組織づくりに注力。