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広告運用に本質的な視点を

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  • 佐藤大地

医療の広告規制から考える、より良い広告運用者像

>医療の広告規制から考える、より良い広告運用者像

目次

  • 成果の追求と、初心を忘れない難しさ
  • 医療に関わる広告規制の変遷
  • より良い広告運用者であるためのシンプルな基準

 

【成果の追求と、初心を忘れない難しさ】

良い広告運用者は、担当する商品・サービスを如何にして魅力的に伝えるかについて、日々悩み、考えます。

しかし、広告運用に慣れ、定量的な目標に追われる日々を過ごすと、消費者の気持ちを考えない、「良くない広告運用者」になってしまうことがあります。特に、その対象が人の命や健康に関わる医療であれば、責任は小さくありません。

今回は、医療に関わる広告規制のトレンドから、より良い広告運用者のあり方について考えてみたいと思います。

 

【医療に関わる広告規制の変遷】

広告には、景品表示法をはじめ、表現に関わるいくつかのルールがあります。「医薬品」や「医療機器」などに関わる情報は、「薬機法(旧薬事法)」という別建ての法律で、その取扱いが定められています。そして、専門的な情報の多い「医療」においても、もちろんその情報発信、広告に関わる法律が整備されています。

これらのルールについて、より理解を深めるために時系列で振り返ってみます。

以前の医療法(1992年以前)では、医業等に関して「広告しても良い事項」が定められていました。これが、広告規制の土台として今日まで機能しています。

当初の規定では、以下の情報を広告可能としていました。

  • 医師又は歯科医師である旨、診療科名(政令で定めるもの、厚生大臣の許可を受けたもの)
  • 病院又は診療所の名称・電話番号及び所在地
  • 常時診療に従事する医師又は歯科医師の氏名
  • 診療日又は診療時間
  • 入院設備の有無、紹介することができる他の病院又は診療所の名称
  • 診療録その他の診療に関する諸記録に係る情報

上記から、広告が可能な事項は厳しく制限されていることがわかります。そもそも医療広告の規制というのは、表現してはならないことを列挙するネガティブリスト方式ではなく、表現してもよいことを列挙するポジティブリスト方式によって運用が開始されているのです。このことから、医療に関わる広告は、特に慎重に取り扱うべきだという当局のメッセージを読み取ることができます。

その後、1992年、1997年、2001年と規制緩和がなされます。広告できる診療科名が増えたほか、療養型病床群の有無、訪問看護に関する事項、予防接種の実施などが、広告できる事項として追加されました。

2006年の法改正からは、これまでのような、規制対象の事項を個別に列記する方式は廃止されました。代わりに、一定の性質を持った事項を項目群にまとめて規定する「包括規定方式」が導入されました。

この変更により、当局が迅速に規定を作ることができるようになりました。こう聞くと、広告表現が業務範囲の中に含まれる担当者の多くは眉をひそめてしまうかもしれません。

しかし、規定が明示されることで初めて、リーガルリスクや出稿の実現可能性を、予めきちんと理解できるようになるのです。広告運用担当者であれば長期にわたる効果の想定が立てやすくなるので、この状況は喜ばしいものだと理解できるでしょう。

以下に、2017年現在で広告に使える事項をまとめました。制限されているとは言え、現状これだけの項目が広告に利用できます。法律に縛られてがんじがらめに思われている医療機関の広告も、様々な角度からの表現が可能になってきたように思えます。

20171127_01

※下記を参考に作成。

医療法第二節 医業、歯科医業又は助産師の業務等の広告
第六条の五
http://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=323AC0000000205&openerCode=1#D

平成19年厚生労働省告示第108号
http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/isei/kokokukisei/dl/jikou.pdf

 

●最新の動向

表現の幅が広がったといいつつも、昨今のトレンドは、より規制が厳しくなる方向に進んでいます。

2017年6月7日には、衆議院本会議で医療法の改正が可決されました。これを受け、2018年6月までに新しい規制が始まります。改正内容には、「医療機関のホームページの適切なあり方に関する指針」が追加されています。

具体的には、下記の内容が制定されています。

ホームページに掲載すべきでない事項

(1)内容が虚偽にわたる、又は客観的事実であることを証明することができないもの

(2)他との比較等により自らの優良性を示そうとするもの

(3)内容が誇大なもの又は医療機関にとって都合が良い情報等の過度な強調

(4)早急な受診を過度にあおる表現又は費用の過度な強調

(5)科学的な根拠が乏しい情報に基づき、国民・患者の不安を過度にあおるなどして、医療機関への受診や特定の手術・処置等の実施を不当に誘導するもの

(6)公序良俗に反するもの

(7)医療法以外の法令で禁止されるもの

 

ホームページに掲載すべき事項(自由診療を行う医療機関に限る )。

(1)通常必要とされる治療内容、費用等に関する事項

(2)治療等のリスク、副作用等に関する事項

 

医療機関のホームページの内容の適切なあり方に関する指針
(医療機関ホームページガイドライン)より抜粋
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000002kr43-att/2r9852000002kr5t.pdf

 

これだけだと、本指針の規制内容が強いものだとは感じませんが、資料内の例を確認すると印象が変わりました。また、医療法改正直後から具体的な資料が発布されており、各事業者に周知させようとしている状況からも、改正内容をなんとしても遵守させていくのだという当局の本気度が伺い知れます。

この「医療機関のホームページ」に関する今回の改正内容は、広告に適用される医療広告ガイドラインと比べても同程度の厳格さのある内容ではないでしょうか。実際、資料には下記の文言が付されています。

医療に関する広告は、国民・患者保護の観点から、次のような考え方に基づき、医療法(昭和23年法律第205号。以下「法」という )により限定的に認められた事項以外は、広告が禁止されてきたところである。

 

医療機関のホームページの内容の適切なあり方に関する指針
(医療機関ホームページガイドライン)より抜粋
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000002kr43-att/2r9852000002kr5t.pdf

 ホームページを法の規制対象と「見なさないこととするものの」と留保はしていますが、規制をしないことについて消極的な表現を使っていることや、何より、文書を「医療に関する広告は」から始まる文言で記述していることからも、当局は医療に関わるホームページを事実上、広告と同等に「見なす必要がある」と考えていることが伺えます。それだけウェブ上での情報がトラブルの種になっており、取扱いに慎重になっているのだと思います。

 

●医療機関ネットパトロール

また、厚生労働省主導で「医療機関ネットパトロール」という取り組みが始まっています。これは、広告やホームページに適用されるガイドラインに抵触する可能性のあるウェブサイトを監視することを目的としています。問題があると判断された医療機関は、自治体の指導を受けることになっています

 参照:

医療機関ネットパトロール
http://iryoukoukoku-patroll.com/

医業若しくは歯科医業又は病院若しくは診療所に関して広告し得る事項等及び広告適正化のための指導等に関する指針(医療広告ガイドライン)
http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/isei/kokokukisei/dl/shishin.pdf

 

このような実効性のある取組みを実施していることからも、当局が、医療に関わる広告の法規制と同等に医療機関のホームページの表現規制について、それを重視した対応を実施することはごく自然だといえます。

近年は、医療情報サイト「WELQ」が社会的な問題になったり、アディーレ法律事務所の広告表現が問題になったりと、医療分野での情報発信や広告表現で問題が多発しています。問題が発生している以上、状況を織り込んだ法律の運用がなされることや、今後の法改正議論が活発になることは必然の流れです。

 

参照:

日本経済新聞ウェブ版 2016年12月7日
DeNA「成長優先、管理及ばず」 サイト問題謝罪
https://www.nikkei.com/article/DGXLASDZ07HOB_X01C16A2000000/

日本経済新聞 2017/10/12朝刊
虚偽宣伝で業務停止2カ月 アディーレ法律事務所
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO22127220R11C17A0CC1000/

 

これからも、関係諸法が次々に改正されていくことが想定される医療広告の表現においては、コンサバティブなものを利用するのが望ましいのではないかと思います。短期的に成果があがっても、それが長期的に続かなければ意味がありません。余計なコストとリスクを負担せず、中長期的、継続的に運用し続けられる広告表現を検討する必要があるでしょう。

 

【より良い広告運用者であるためのシンプルな基準】

広告運用者が医療に関わる広告について真摯に向き合おうとするのであれば、関係法令を理解しておく必要があります。それは、法令を遵守すべきという当たり前のことだけでなく、法令自体が医療に関わる広告のあり方を示しているからです。虚偽はもちろん、不確実な情報を用いた広告表現を使わない。誤解を与える広告表現を使わない。いずれも当たり前に思える原則ですが、日々の業務の中では、ともすれば、問い合わせが獲得できるのであれば、法令に抵触しないギリギリの範囲でできる広告表現をしたくなるかもしれません。

しかし、自分が担当しているサービスが、するものだと思い直した時に、そのような表現は、果たして、社会に良い影響を与えられるでしょうか。クライアントが望む結果を生むでしょうか。例えば、自分や自分の親しい人が「より良い医療」を探している時に、自分が運用している広告に接触したいと思ったり、接触してほしいと考えたりするでしょうか。そんな身近なところに、医療に関わる広告をより良いものにするための鍵は隠れていそうです。

医療に関わる法規制の理解は簡単ではありません。しかし、”自身が消費者として目にしたい広告なのか”というシンプルな基準に照らし合わせるだけでも、より良い広告運用ができるのではないでしょうか。誰からも嫌われない広告表現や配信手法などは、きっと存在しないのでしょう。だからこそ、まずは自分だったらどう思うかという感性を大切にして広告運用に臨むことが重要だと考えます。医療に関わる広告規制を理解し直すことで、ルールを遵守するとともに、広告表現に対して自分なりの軸を持った運用者でありたいと改めて思いました。

 

参考:

医療広告ガイドラインに関するQ&A(事例集)
http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/isei/kokokukisei/qa.html

医療法における広告規制等について
http://www.cao.go.jp/consumer/history/03/kabusoshiki/tokusho/doc/20150417_sankou1_1.pdf

「医療法等の一部を改正する法律」の公布について(通知)
http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10800000-Iseikyoku/0000171625.pdf

「医療法等の一部を改正する法律」の概要について(医療に関する広告規制の見直し)
http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10800000-Iseikyoku/0000171628.pdf

広告可能な診療科名の改正について
http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/isei/kokokukisei/dl/koukokukanou.pdf

医療法(昭和二十三年法律第二百五号)抜粋
http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/isei/kokokukisei/dl/iryouhou.pdf

 

この記事を書いた人

アドオペレーションズ・ストラテジスト

佐藤大地

学生期よりデジタルマーケティングに可能性を感じ、株式会社キーワードマーケティングにてリスティング広告の運用に携わり、大学卒業後同社に入社。
運用型広告からSEO、LPO業務に従事した後、一念発起しデジタルマーケティング領域で独立する。
今後の広告主とユーザのためになる広告とは何かを模索していた折、オーリーズの支援スタイル・理念に共感し、参画を決意。広告主と代理店のこれから「あり方」を体現するため、業務に邁進する。

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