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広告運用に本質的な視点を

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  • 足立 誠愛

広告主のインハウスのお手伝いをしたら、わたしたち代理店も幸せになった話

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最近よく、広告運用のインハウスに関するご相談をいただき、じわじわとニーズが増しているような気がします。いや、ニーズというほど輪郭がはっきりとたものではなく、自社でやった方がいいんじゃないか、やれるんじゃないか、といった感じで、漠然とした課題感を持っている広告主に出会います。

何故だろうと考える中で、これを考えることは、私たち代理店の存在意義を考えることと同じだなと思い、記事にして考えをまとめてみました。

ここで、広告運用は「インハウス」か「外注」か?という二項対立の議論をしたいのではなく、また「インハウス 代理店 メリット デメリット」で検索して得られるような話をしたいわけでもありません。何故このような議論が生まれるのか?という背景を理解して、広告主と代理店それぞれが、より良く広告運用に向き合うためのきっかけづくりができればと思っています。

 

なぜ、インハウスを検討したくなるのか?

そもそもなぜ、広告主はインハウスを検討したくなるのでしょうか。インハウスを検討する理由を並べ、その動機の源泉を探ってみます。

例えば、こんな動機やきっかけがあるのかなと思います。

 

  • めぼしい施策は打ち尽くし、成果の頭打ちを感じている(成果の頭打ち)
  • 成果の頭打ちと、代理店が踏み込んでこないというジレンマを解消したい(施策のマンネリ化)
  • 代理店の提案する施策内容はどれも合理的で、想定の範囲を超えない(代理店への不満)
  • 成果向上のポイントは施策内容よりも改善速度にあると考える(改善の高速化)
  • 訴求改善(広告やLP)を内製することでよりメッセージを洗練させたい(改善の柔軟性向上)
  • クリエイティブ制作を内製し改善スピードを高めたい(クリエイティブの内製化)
  • 事業上の重要なデータと広告運用を深く連動させたい(データの活用・統合)
  • アドフラウドやアドベリフィケーション対策を徹底したい(透明性の追求)
  • 立ち上げフェ―ズであり広告予算を十分に用意できない(立ち上げフェーズ)
  • たまたま経験者が採用できた(経験者の在籍)

 

これらの動機やきっかけを抽象化するために、「予算規模の大・小」「動機のネガティブ・ポジティブ」のマップに落としてみます。

マッピングそのうえで各象限を抽象化すると、ちょっと雑ですがこんな感じになるのかなと思います。

抽象化

たとえば右上なんかは、LIFULLさんの「HOME’S」(※1)だったり、リクルートホールディングスさんの「ホットペッパービューティー」(※2)だったり、高いレベルでのインハウス例が該当すると思います。

(※1)ITmedia マーケティング通信|“代理店任せ”の限界とは?「HOME’S」運営のネクストがWeb広告運用のインハウス化に挑む理由
http://marketing.itmedia.co.jp/mm/articles/1609/27/news157.html
(※2)unyoo.jp|リクルートホールディングスの石井さんに聞く:キーワードに依存しないこれからの検索連動型広告の運用について考える
http://unyoo.jp/2017/07/interview-hotpepper-beauty/

この中で弊社によくご相談をいただくのは、左上の「自社でやったほうがよさそう」というケースです。今回はここについて考えを深めてみます。ちなみにこの左上のケースは、調査データがあるわけでもなく、いくつかの事例から得た体感値でしかないのですが、年間予算1~3億円程度の広告主によく見受けられるように思います。 月額予算では500万円〜2,500万円程度の広告主です。

 

自社でやった方がよさそう、と考えるメカニズム

なぜ「自分たちでやったほうがよさそう」と思うのでしょうか。理由は様々でしょうが、そう思わせる背景は、以下のような環境変化が影響していると思います。

  • 広告枠の自由取引化
  • プラットフォームの自動化
  • 施策の多様化
  • 媒体の寡占化
  • 代理店の報酬形態
  • 市場の若さ、人材不足

まず、言うまでもりませんが、広告枠の自由取引化によって、そもそも(物理的に)自社で運用できてしまう、という前提があります。プラットフォームの自動化も理由として分かりやすく、正しい設定さえできれば、安定的な成果を得ることができるようにもなってきています。(もちろん、そのための「設計」が大切なことは言うまでもありません。)

このような環境変化が関り合うことで、「自社でやったほうがよさそう」「自社でできるかも」という考えを生んでいるのだと思います。

ここでは、もう少し具体的に「代理店の報酬形態」を入り口にして考えてみます。

 

代理店が目指す状態目標と、広告主の期待値ギャップ

先に結論を言えば、多くの代理店が採用しているコミッション(手数料)型の報酬形態だけだと、昨今の広告主の期待に応え続けるのが難しくなることがある、ということです。だいたいこれで伝えたいことは伝わると思いますが、以下に図にして説明してみます。

※広告代理店の報酬形態の全体像や、それぞれの利点・難点は、下記の記事がとても参考になります。

unyoo.jp|デジタル広告費の質的変化と、広告代理店の報酬体系 〜Pricing Propositions
http://unyoo.jp/2017/05/diversity-of-agency-business-and-pricing/

縦軸に「代理店が広告主の支援にかけるリソース」を取り、横軸に「時間」を取ります。そしてこのケースでは、広告費用に連動して報酬額が決まるコミッション型の報酬モデルで支援をしているとします。

運用型広告領域を支援する代理店は、多くの場合、アカウントの構築(再構築)から支援が開始します。 また多くの場合、支援にかかるリソースはフロントヘビーになると思います。このフロントヘビーになる部分では、代理店は試行錯誤を重ね、できる限り再現性のある方法をもってパフォーマンスを最大化・安定化させようと努めます。このように「成果の安定化=工数の安定化=利益の安定化」を目指すことが多いのではないでしょうか。

リソースイメージ

しかしこの安定期は「頭打ちフェーズ」とも言い換えることができます。代理店が作り上げた安定化の基盤は、「頭打ち」という現象となって課題として認識されます。もちろん「頭を打つ」ことは、それらの施策をやりきっていることに他ならず、ひとつの目指すべき状態ともいえるので、決して咎められるものではないのですが、問題はその先です。

コミッション型の報酬での契約の場合、得られる報酬は広告配信金額に依存します。 配信金額に伸びる見込みがなければ、支援の内容を大きく変えることはしません(というか、できません)。よって、できるだけ現状を維持しようという力学が働きます。意図的かどうかは問題ではなく、構造上そうなることが多いです。理由はシンプルで、代理店と広告主の利害が一致しないからです。

期待ギャップ
ゆえに、後手後手の支援になり、なかなか頭打ちを突破することができません。このような状況から、じわじわと「広告効果の頭打ち」と「代理店が踏み込んでこない」というジレンマに陥ることが多いのではないでしょうか。

次に、この広告主の「期待値」は何に対する期待なのか、についても考えてみます。

昨今では、運用型広告の広告運用業務に関わる課題とその解決方法が多様化し、それらの手段が広告運用と有機的につながっています。「広告運用代行」がどこからどこまでを指すのか、という点について境界線が曖昧になっている時代と言えます。

施策の多様化

そして、それらの周辺課題の解決に取り組むことは、広告主のサービスや商品に関するユニークなデータに向き合うことであり、それは、データからユーザーを捉えようという活動そのものであり、そしてデータに向き合った結果の、小さな改善の集積によって大きな成果を得ようという緻密なプロセスです。「成果の安定化=工数の安定化=利益の安定化」とは逆を行くような、手のかかる、再現性の低い活動と言えます。

施策の広がり
データに向き合い改善を重ねることは、予算が数十億であろうが数千万であろうが、誰でも取り組むことのできる活動です。だから、どの規模の広告主もそれを求めます。しかし、これを代理店が「手数料20%」の範囲でやり切ろうとすると、ちょっと厳しくなってきます。 月間予算が十分にあれば、代理店も十分なリソースを充てることができるので問題にはならないのですが、予算によっては無理がかかります。

支援領域

そんな広告主の期待とは裏腹に、コミッション型の報酬モデルはその期待に応えづらい構造になっています。 当たり前ですが、広告予算が減少すれば充てられるリソースが減ります。それよりも悩ましいのが、変額型であることです。変額型だと、リソース投入判断の難易度が上がります。新しい課題を設定し、データに向き合うことを決意することは、1、2ヶ月でケリがつくようなことではなく、もっと時間のかかるプロジェクトのような性質があると思います。ですので、新しい課題に取り組むためには、代理店側からすると中長期的に安定した利益が見込める必要があります。

 

変額制

それでいて、この人材不足です。そもそも、これらの課題に向き合える人が、代理店にも広告主にも足りていません。そうなれば代理店のリソース管理は、どうしても保守的なものにならざるを得ません。

さらにこれは余談ですが、停滞が続くと、その状況の悪さからいろいろな無駄が生まれます。あまり意識されませんが、広告主と代理店、つまり発注者と受注者という関係は、隠れたコミュニケーションコストを生んでいます。

例えば、

  • 広告主の期待値ギャップを、既存の施策内で埋めようとする「小さな課題」探し
  • 改善「スピード」と「頻度」に対する、必要以上のアクション要求
  • それらに伴う、レポーティングのためのレポート作成

などなど。

頭打ちが続くと、「とにかく何か手を打たないと」という状態が続きます。しかし、その施策の範囲でどうこうしようとジタバタしても、充てるリソースに対しリターンが限定的で、消耗戦になります

 

課題解決のレイヤーを上げるための、手段としてのインハウス

このような背景から、広告主の代理店との間に距離が生まれてしまい、それが「自社でやったほうがいいかも」と考える現象として表れているのだと思います。

この課題を解決するためのアプローチはいろいろと考えることができますが、そのひとつのシナリオとして、「代理店と広告主のタッグを組んだインハウス構築」という選択肢を考えてみます。

つまり、代理店と広告主とが一緒になって広告運用のインハウス体制をつくり、無駄コストを潰すなどしてリソースを生み出し、生まれたリソースによって、共に課題解決のレイヤーを上げていく、という方法です。 実際に、弊社ではこの方法で頭打ちを突破した事例がいくつかあります。

これがなんとも楽しくて、とても一体感が生まれます。広告運用が双方にとって他人ごとではなく、否が応でも自分ごと化される。インハウスによって課題のレイヤーを上げることで、施策の範囲でジタバタすることがなくなり、停滞期特有の隠れたコミュニケーションコストも排除できるので、運用者も支援に対して前向きになります。人材不足や環境変化は、代理店と広告主が一緒になって解決し突破していくもの。そう考えた時、発注社、受注者の関係を超えて、「一緒にインハウス体制を作る」という選択肢は、双方にとってメリットの大きい課題解決方法だなと思います。

この点については、具体的なプロセスや報酬形態の設定方法、スキルトランスファーの方法、そしてそもそも「インハウス化できている」とはどういう状態なのか、といった話を抜きにしては語れませんので、また改めて記事にしたいと思います。

「一緒にインハウス体制を作る」というプロセスを、ざっくりとまとめると、

  • アカウントの設計と安定化のフェーズを、まずは代理店が作り上げる
  • 自動化によって作業負担を極力抑え、安定的な成果が得られるようになったら広告運用を広告主に移管
  • 日常的に発生する質疑や新機能の導入判断などついては、代理店がコンサルティングという形でサポート
  • プロジェクトを立ち上げ、新しい契約によってチャレンジングな施策を実行する

という流れです。
イメージにすると、こんな感じです。フェーズに応じて業務領域や報酬形態を変えていきます。

報酬形態

そしてこの方法、「媒体の寡占化」と「媒体の自動化」のトレンドから、それほど難しいことではなくなってきているな、と感じます

私が携わった案件では、最終的にインハウスの運用担当となる方は、はじめてAdWordsやFacebook広告を触る、という方だったりします。入り口さえしっかりと抑えることができれば、3ヶ月もあればAdWordsやFacebook広告も運用できるようになります。この「入り口をしっかり抑える」ことが何より大事ですが、十分な知見を持った代理店が横についていれば、難しいことではありません。

ここで強調しておきたいことは、インハウスを実現することが目的ではないということです。このケースのインハウスは、次のフェーズに向かうための、課題解決のレイヤーを上げるための手段であるという認識のうえで、「さあ早くインハウス環境を整えて、次の課題に取り掛かりましょうよ!」というモチベーションが、広告主、代理店の双方にとって大事な要素だと思っています。

それには、しっかりとインハウス前後で業務領域を定義して、見合った報酬を請求することが必要です。まだまだコミッション文化なので、業務領域と報酬の設定がスムーズにいかないケースも少なくありませんが、弊社ではフィー型の支援例が増え続けてます。

いろいろなことが転換期を迎えているこの時代、中長期のシナリオを、広告主と代理店とで一緒に設計することが大事だなと思います。代理店として「私たちは何の価値を提供しているのか」「広告主の課題を解決するためのベストな選択は何か」を問いながら、より良い選択を考えていきたいと思います。

この記事を書いた人

取締役副社長

足立 誠愛

在学時に現代広告の研究室に所属。実践主導の研究活動を通じて広告コミュニケーションの楽しさを学ぶ。同時期にワークスアプリケーションズのインターンシップに参加し、上位約3%の最高評価を獲得し、同社に入社。ERPパッケージ「COMPANY」導入・保守運用部門のコンサルタントを経て、アカウントマネージャーとして顧客の最終責任を担い、クライアントと組織のROI向上に邁進する。2013年に代表鈴木の誘いを受け、オーリーズの立ち上げに関わる。その後、2014年1月より運用型広告に特化した広告代理事業を開始。「クライアントにとって最高のバディに」をミッションに、運用型広告領域において本質的な価値提供を追求し、現在に至る。

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